しの

ほつれるのしののレビュー・感想・評価

ほつれる(2023年製作の映画)
3.2
破局寸前の妻にも夫にもちゃんと腹立つし嫌だなと思えるのだが、この最悪な関係の行き先をついつい見守ってしまう。だらしなさ情けなさに人間味を感じるからだ。

夫の顔がちゃんと映らない時間がかなり続いたり、ある人物と対峙したときの相手側の顔を一切映さなかったり、主人公の心理に合わせて他者の顔がどう映るかが計算されていて、これが全編にわたって続く。ここがまず新鮮だった。そもそも主人公も常にどこか遠くを見ているので、観ていてかなり不安感がある。

だからこそ、この「ほつれ」が臨界点に達して爆発するクライマックスが、なかなかキリキリするのだが同時にどこか来たるべくして来たような感じもして、なんならちょっとカタルシスすらある。極めつけに夫の「別れたくないよ」の情けなさ。なんだかんだお互いだらしないし情けないのだ。彼らがどういう経緯で夫婦になったかは開示されないが、なんとなく察せるようにはなっていて、クライマックスの一言でほぼ明確になる。そこに至って、これは他者との適切な距離を見出せずにずるずる来てしまった人たちの話だったんだなと分かる。

実際、主人公の逃避グセも相当だし、夫の“依存の取り繕い”も最悪だ。とくに夫のあの何とも言えない、物腰がソフトなようでコミュニケーションとしては最悪だし結局相手に依存している自分を取り繕ってるだけという感じが、個人的にはもはやクセになるくらい素晴らしかった。というか本作は全体的に演技がかなり自然で、だからこそ余計に嫌な感じがする。

ただラスト、ひとり旅立つ主人公の車をやたら延々と映すのは逃げに感じた。これはどこまでも情けなくて凡庸な人々の話なのだから、無理に「感じ入ってください」みたいな勿体ぶった終わり方にしなくてよかったと思う。列車で始まったので列車で閉じる(しかし主人公の見据える目線は変わっている)くらいでよかった。

しかし本作のように、絶対体験したくない状況に身を置かせて、でもついつい見入ってしまう……みたいな体験もまた映画の機能だよなと思う。単に「こうはなるまい」と思うのではなく、その“こう”に繋がっていく因子も自分のなかに少なからずあるなと思ってしまうことが重要なのだ。
しの

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