うめまつ

パラダイスの夕暮れのうめまつのレビュー・感想・評価

パラダイスの夕暮れ(1986年製作の映画)
3.8
冒頭でVOLVOのゴミ収集車が出て来た瞬間、ラーメンズの『名は体を表す』に脳内がワープしてしまい危なかった。この派手じゃないけど鮮やかな色合いと、隅々までクリーンな映像は初期の頃から変わらないんですね。これが監督の最新作だと言われても何の疑いも持たないほど時代を感じさせないし、作風もしっかり確立されてて慄く。相変わらずぶっきらぼうで無表情な登場人物達の、真っ直ぐで不器用な生き方が微笑ましい。

主人公が流血するほど手を怪我してるのに、しれっとした顔でスーパーで買い物して、それを見たレジ係の女性が何の迷いもなく仕事ほっぽいて手当してくれる流れからして最高だし、もうこの時点でクリクリの目が恋しちゃってて可愛い。後日彼女をデートに誘って、いそいそと準備してスーツ着て花束持って店の前で待ってる姿がチャーミングすぎて、そんな待ち方されたら好きになっちゃうでしょうが!?と前のめりになったのに、連れてってくれるのは寂れたビンゴの店というオチ。フィンランドはビンゴ文化が盛んなのかな?でも初デートのチョイスではないよ。そら彼女も帰るよ。

皿洗いの手を止めた時の顔をズームにしたりするだけで「あ、今失恋の予感を感じているのだな」というのが伝わるのは一体どういうカラクリなんだろう。台詞どころが眉ひとつ動かさない人の気持ちが手に取るようにわかるから「あれ、私ってもしかしてエスパー?」って勘違いしちゃう。カウリスマキ監督は観客を超能力者にしてくれる魔法使いなのかも。それが嬉しくて作品を観ているのかな。
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