地底獣国

プレジデントの地底獣国のレビュー・感想・評価

プレジデント(2021年製作の映画)
3.9
今回ネタバレマークつけていないけど実質相当しているんでそのつもりで読んでいただきたい。


2017年、それまで40年近く独裁を続けていたジンバブエのムガベ大統領がクーデターによって政権を追われ、副大統領のエマーソン・ムナンガグワがその後釜についた。本作は翌2018年に行われた大統領選挙及び議会選挙について、投票1ヶ月前から選挙後の大統領就任式まで、主に野党候補ネルソン・チャミサ陣営の動きを追ったドキュメンタリー。

ざっくり言うと「自由で公正な民主主義の実現は殆ど不可能なんじゃないかと思うぐらい難しい」

軍も警察も選管も政権が動かせるとあって票の操作を防ぐことはまずできない。外国の選挙監視団も本来の役目を果たせてそうに見えず(そもそも彼らに利益相反が無いのかも分からん)、結局ムナンガグワの勝利が発表されることに。

勿論カメラは野党陣営に貼り付いているので、この発表時点で本当に票の水増しが行われていたのか不明だったわけだが、この後の不服申し立ての提訴に至る調査と公判でその疑惑が色濃くなってくる。

ある州で〆切1時間半前の投票数が10万票程度だったのが最終的に40万票以上になったとか、複数の投票所(訴状によると16箇所)でムナンガグワ候補とチャミサ候補の得票数が一致していたとか不自然な数字が次々と挙げられていった。が、最高裁の判断は「申し立て却下」

いやまあ状況証拠だけやし、『不自然な数字』と言っても絶対起こり得ないわけではないけど、しかしなぁ‥これで駄目って言われたらそれこそ不正が行われている現場を押さえるしか無いってことやからなあ。

映画はチャミサが政治闘争の継続を呼びかける会見のあと、就任式の映像に変わり、ムナンガグワのドヤ顔でエンドロール入りというバッドエンドなんだが、悪い話には続きがある。

本作完成の2年後、2023年8月に大統領選挙と議会選挙が行われ、ムナンガグワが再選された(選管発表によると得票率は52.6%で一方のチャミサは44%)。ついでに言うと就任式には、南アフリカ共和国大統領のほか、ジンバブエと関係の深い中国の国家副主席、ベラルーシの副大統領らが出席したそうで。民主主義の困難さと共にメディアの限界も思い知らされ暗澹たる気分だが、とにかく何が起きているのか極力詳細に記録し続けて伝えていくしかないのだろう。
地底獣国

地底獣国