雨宮はな

人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をしたの雨宮はなのレビュー・感想・評価

4.0
ササポンハウスは「精神と時の部屋」みたいだ。
虚構を重ねて“ほんとうのじぶん”がわからなくなった主人公に、気持ちを重ねよう。

実話を私小説にしたものが原作なだけあって、なかなか無い設定ながら、描かれる思考や感情はどこまでも「ある」ものだった。
手を出す勇気はないくせに手元に置いておきたがるクズ男とかねw

リアルな感じを丁寧に作りこみながらも、見せたいのはそこではなく、その作りこみが観客をさりげなく誘導してくれる。
考察の材料ではなく、気持ちをのせる補助輪みたいな感じ。
たとえば、小道具や衣装やアニメーションの虫の色。
主人公が身に着けているものや、そばに置いているもの。

社会が勝手に作って押し付けている理想を自分がつくったものだと思い込んでしまうほどに、虚構を重ねた主人公が呼吸できなくなったみたいに、ギリギリで呼吸している人はたくさんいるはずだ。
この作品の主人公は女性だけど、現代人はみんな心にササポンを棲まわせる方が良いんだと思う。
痛々しすぎるのに、嫌な奴だと捨てきれない最高に人間らしい主人公。
彼女の存在に、あらゆる環境と立場の日本人が詰め込まれていてびっくりする。

誰もがアキコになりうる。
すでに自分もアキコなのかもしれない。
だからこそ、クライマックスとラストシーンに救われる人は多いはず。
スイカとスポーツカーの赤を「どっちもきれいだな」って思えたら、きっともう大丈夫。

仕事ナシ、男ナシ、残高10万円(もしくはナシ)でも大丈夫。
ナンダカンダ生きていける。
頑張(りすぎ)る君を応援しない、Be yourselfな感じの映画。
雨宮はな

雨宮はな