ぶみ

人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をしたのぶみのレビュー・感想・評価

3.5
この時代、どう生き抜く?

大木亜希子が上梓した同名の私小説を、穐山茉由監督、深川麻衣主演により映像化したドラマ。
メンタルが病んでしまい会社を辞めた元アイドルの主人公が、ひょんなことからサラリーマンの男性と同居生活を送ることとなる姿を描く。
原作は未読。
主人公となる元アイドル安希子を深川、同居することとなるサラリーマン・通称ササポンを井浦新、安希子の同級生を松浦りょう、柳ゆり菜が演じているほか、猪塚健太、三宅亮輔、森高愛、柳憂怜等が登場。
物語は、通帳残高10万円となってしまった安希子が、友人の紹介で都内の一軒家に暮らし、空いている部屋をシェアハウスとして貸しているササポンの家に転がり込んだことから奇妙な同居生活を送る様が描かれるのだが、実際に元乃木坂46である深川が、彼女が得意とする自然体とも言える演技を見せてくれておりハマり役。
と同時に、勤め人ではあるのだが、何の仕事をしているのかわからず、若き頃は赤いダットサン・フェアレディを、今はフォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアントに乗り、軽井沢に別荘を持つという謎多き56歳のササポンは、そんなに饒舌ではなく、早口でもないのだが、発するさりげない一言一言に何とも言えない癒しと含蓄があり、これもまた井浦がピッタリ。
そんなササポンにより、人生が詰んだと感じている安希子が変化していく様は、観ているこちらもついつい応援したくなるものであり、予告編から想像するにコメディテイスト多めかと思いきや、思いのほか真面目に作られていたのも好印象。
特に、年代的には井浦の実年齢に近い私としては、どうしてもササポン目線となってしまうのだが、語り口は重くないものの、言葉の端々に人柄が滲み出る話し方は、真似したくてもできないものであり、そんな歳のとり方をしたいものだと感じたところであるとともに、ササポンがよく「適当に」という言葉を使うのは、同じく良い意味での「適当」が私の好きなフレーズであることから、思わず膝を打ちたくなった次第。
途中、スイカを食べるシーンがあるのだが、そんな二人のやりとりが凝縮されており、思わず笑みが浮かんでしまうもの。
また、クルマに乗るシーンで、後席シートベルトをしないという残念な作品が最近レビューした中でも散見される中、きちんと装着していたのは、本作品が細部まで手を抜いていないことの証左。
本作品の最大の難点は、対面販売によるチケット購入の際、「作品はお決まりですか?」との問いかけに対し、「じんせいにつんだもとあいどるは、あかのたにんのおっさんとすむせんたくをした」と全て言うべきか、「じんせいにつんだ」までで止めておくべきか、はたまた予告編で語られていた省略形である「つんドル」で理解してくれるのかが、わからないことであり、その答えが出なかった私は、あえて自動券売機の劇場をチョイスしたと同時に、下の娘が通う学校にいた「笹」の文字が名字に入っていただけでササポンと呼ばれていた今ひとつ冴えない教師を思い出し、朝一から同じ公開日である某怪獣映画により賑わうスクリーンの裏で、観客席は閑散としていたものの、何気に邦画の良さが詰まっていた一作。

がむしゃらに頑張って手に入れたものが、宝物とは限らないでしょ。
ぶみ

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