カルダモン

哀れなるものたちのカルダモンのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.5
一足先に先行上映にて鑑賞。ランティモス作品ということで身構えていたのですが、比較的わかりやすいandポジティブな物語になっていて逆に驚いた。いつも通り好き嫌いは大いに別れると思うけど。

原作は未読。橋から飛び降り自らの命を絶ったベラが、天才外科医ゴッドウィンの手によって蘇生する。胎児の脳を移植されたベラの目に映る世界、触れた人々を描いた冒険奇譚であり成長記録。
「世界を見たい」という好奇心と、身体が求めるコントロールできない性欲を存分に開花させるベラが美しく力強い。制限から解放されたかのようなファッションと、長く伸ばした黒髪には強靭な〈生〉の意志を感じた。一方そんなベラに惹かれてなにも知らない彼女をコントロールしようとする男たち(主にマークラファロ演じるダンカン)しかしどんどん世界を吸収していくベラはやがて男たちの手に余るほどに急成長を遂げていき、仕舞いには男たちを哀れみの目で冷ややかに見つめる(主にマークラファロ演じるダンカンphase2)。彼女が成長すればするほど、煌びやかな世界とは程遠い現実。ベラにとって世界がどのように見えているのか、いつのまにか私自身も彼女のフィルターを通して見始める。

純真無垢なベラの精神と大人の体がチグハグで、身体が勝手に性欲を湧き立たせ無垢なる精神ゆえに欲望に忠実。身体の赴くままに満たしていこうとする姿はなんとも気不味いのだが、その倫理観さえ吹っ飛ばそうとするエマ・ストーンの体当たり演技が強力だった。身も蓋もなく言ってしまえば女性の解放と自立の話。だけど語り方次第でここまで突拍子のないものができるのかという驚きの方が強かった。なにしろ絵本の中に飛び込んだかのような世界の表現、舞台セットや衣装や撮影などのビジュアル面が圧倒的で、クドイ程に攻めた性描写でさえ丸呑みにしている。なにを見せられているのか理解するのに一拍置かなくてはならない感じは狂った映画体験で楽しかった。


ランティモス監督の初期作とはスケール感が段違いにアップしつつ、一筋縄では行かない感じや、家族のかたちや外の世界と内の世界の在り方など一貫しておりました。後味はまったく異なる爽快さだけど。