ヒラツカ

哀れなるものたちのヒラツカのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.5
一個前に実写版の『リトル・マーメイド』を観たからなのかもしれないけれど、つまりディズニー・プリンセス・ストーリーだなと思った。狭いコミュニティに閉じ込められた姫が「世界を見たいの」と言い出して、愉快な小動物とともに城を抜け出して冒険をするわけだ(今回はマーク・ラファロ演じるおっさんだったけど)。またベラ・バクスターの急成長は、そのまま人生の縮図で、話が通じず感情にまかせていた獣のような少女時代から、次第に思春期になって性欲や嗜好が生まれるが、残酷な現実にも触れ、きちんと目を見開いた結果、哲学が始まる。これって人生ですよね、人生を映画に起こした作品を久しぶりに観たような。
ヨルゴス・ランティモスは僕の大好きな監督だ。基本的には映画の解釈を観客に委ねるというオープンな態度なのに、あんまりドヤ顔せずいっさい嫌味がないというのが、いつもバランスいいなあと思う。出世作の『ロブスター』や『聖なる鹿殺し』はすっきり観られるシンプルな寓話だったし、『女王陛下のお気に入り』くらいからは、エンタメ映像作家として一気に覚醒したようで、この作品で多用した豪華絢爛な舞台をGoProみたいな広角で安っぽく撮るというのを、もうその後も完全に持ちネタのスタイルにしたようだ。本作も、舞台は18〜19世紀なのかと思いきや、ゴンドラや気球のような公共交通があったりとスチームパンクの世界観だったことが分かり、それはどうしてもかっこ良いし、周りは当時の貴族衣装を身につける中、ベラだけはミニスカートでショートブーツ履いてたりするのもセンスいいよね。それから、ウィレム・デフォー演じる博士のフランケン・メイクも、『トータルリコール』の顔面崩壊ミュータントほどはやりすぎてないし、この時代にちょうど観やすい感じで的を射てる。映画って脚本と俳優に注目されがちだけれど、衣装やメイクアップもきちんと映像効果だよなあ、と再認識。あと、あちこちでセックス・シーンが出てくるけれども、エロ映画っぽくならないのは、エマ・ストーンの肉感の無い体型のせいもあるが、この監督による圧倒的に「乾いた」絵づくりによるもののお陰。逆に湿度が高いのが、リドリー・スコットやトニー・スコットとか、あとマイケル・ベイみたいな、「しずる感たっぷり」な作風の人たちで、僕は個人的には好きじゃないんですよね。
レストランのダンス・シーンと、ウィレム・デフォーが食事後に行う、「アァー」からの、ふわふわ、ぱちん、が好きだった。最後のオチも最高。