CHICORITA主任

哀れなるものたちのCHICORITA主任のレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.8
自死した女性の身体に、彼女の身籠っていた胎児の脳を移植して蘇生したベラの冒険と成長を描く異色作。過激な性描写も多くR18指定となっています。

赤ちゃん状態から急速に知性を獲得して自立した人間に成長していく、ベラを演じるエマ・ストーンの演技がとにかく圧巻。

モノクロから(ベラがセックスの快楽を知るのと同時に)カラーへと変化し、鮮やかすぎるほど鮮烈な色合いを見せる映像もすごい。カメラワークでも魚眼やピンホールなど多彩な表現を使い分け奇妙で印象的でした。

前半は赤子同然のベラの性的に奔放な姿を追うセックスコメディとして笑えますが、徐々にあらわになる現実、特に女性を抑圧し支配しようとする男性性の醜さを見せつけられるに至っては、糾弾される側の性の人間として身の引き締まる思いがしました。
お前は羊と脳味噌を取り替えたほうがいい手合いじゃないのか?そんな問いを突きつけられた気がします。

世の常識に囚われず、知性も肉体もただ自分の思うがままに使い、愛したいものを愛し、そして敵は容赦なく殺す。
そんなあまりにも自由なベラから見れば、この世全ての人間が「哀れなるものたち」に見えるのかもしれません。

脇を固める役者陣も素晴らしく、ウィレム・デフォーは相変わらず最高だし、マーク・ラファロは最低で最高でした。途中客船で本を読ませてくれた老婦人や、パリの娼館の女主人も素晴らしい存在感だったなぁ。嫌そうな顔しながらも色々お世話してくれる博士の助手の人も良かった。

原作つきですがランティモス監督らしい、ちょっと不条理で幻想的で、社会的メッセージに溢れつつエンタメ作品としても一級品という、ちょっととんでもない傑作でした。ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞も納得の出来。
ぜひぜひ劇場でご覧ください。
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