カタパルトスープレックス

哀れなるものたちのカタパルトスープレックスのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.7
ヨルゴス・ランティモス監督が独自の世界観をさらに一歩進めたファンタジー作品です。アラスター・グレイの同名小説が原作。

前作『女王陛下のお気に入り』(2018年)は脚本を他人に委ねて「ギリシャの奇妙な波」っぽさはだいぶ後退していましたが、本作では原作を元に自ら脚本を手がけているため、「奇妙さ」が戻ってきています。むしろ、強化されたと言ってもいい。

超広角レンズの多用もランティモス監督の特徴ですが、今回も健在。さらに効果的に使われていたと思います。前作に引き続きロビー・ライアン(ケン・ローチ監督の右腕的な存在)が撮影監督を務めました。前作もそうですが超広角レンズに加えて魚眼レンズを使うことでランティモス監督の特徴をさらに際立たせています。ただ、今回は舞台が狭いのでトラッキングショット(カメラが人物の移動に合わせて追尾する撮り方)は控えめでしたね。魚眼レンズとか広角レンズのカットをつなげる別の効果的なやり方を見つけたようです。

ランティモス監督作品は自然光をうまく使う撮影が多いのですが、今回はセットでの撮影が多く、バックの幻想的なセットがとても効果的でした。あと、今回がこれまでの作品と違うのが音楽ですね。これまでずっとランティモス監督作品の音楽を手掛けてきたジョニー・バーンではなく、イェルスキン・フェンドリックスという人が担当しています。確かに、今回の作品のトーンは「不安」な要素が少ないので、ジョニー・バーンではないのでしょう。

技法的なところから入ってしまいましたが、本作は映画の幹である「テーマ」、「ストーリー」と「キャラクター造形」が全て高いレベルでまとまっていたと思います。

まず際立っているのがキャラクター造形です。主人公のベラ・バクスターを演じるエマ・ストーンが(あいかわらず)すばらしい。最初は知能が低いレベルからはじまるのですが、徐々に成長していく。博士の元を離れて肉欲を知り、船の上では知識欲を知り、さらに世俗を知りながら自分自身を獲得していく。「自分らしさは自分自身で獲得する」が本作のテーマだと思うのですが、これをそのまま体現したのがエマ・ストーンの演技だったと思います。

もちろん、脇を固めるウィレム・デフォーやマーク・ラファロもすばらしかったです。ベラの成長と反比例してマーク・ラファロが演じるダンカン・ウェダバーンは落ちていく。幼児化していってしまう。つまり、エマ・ストーンと逆の演技をマーク・ラファロは求められる。その対比があって、ベラの成長が際立つので、マーク・ラファロの役割は非常に大きかったと思います。

本作の欠点を一つ挙げるとしたら、その長さ。長い。いろんな伏線を回収しなければいけないのはわかるのですが、もうちょっとコンパクトにできなかったか。それ以外は文句なくすばらしい作品でした。