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哀れなるものたちのTSのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.1
【見る人を選ぶ怪作だが良作】86点
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監督:ヨルゴス・ランティモス
製作国:イギリス
ジャンル:ファンタジー
収録時間:141分
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 2024年劇場鑑賞3本目。
 前評判通り凄い映画でした。先に申し上げておくと、見る人を選ぶ作品だと思います。しかも余裕のR18であり、誰かと観に行くと気まずくなること必至でしょう。ただ、それでもこの作品の持つパワーに圧倒されましたし、メッセージもひしひしと伝わってきました。奇妙な作風であると聞いてましたし、この監督の前作『女王陛下のお気に入り』は大変つまらなかったので、鑑賞前は少し不安でしたが、なかなかどうして素晴らしい作品だったと思います。エマ・ストーンの演技がもう凄すぎる。間違いなくアカデミー賞主演女優賞を受賞すると確信しています。こんなの、演技といえども自分ならばとても承諾出来ない笑 演者とは凄いものです。

 天才外科医ゴッドは、自殺を図った若い女性の遺体を運び出してきて、身籠っていた子どもの脳をその女性の頭に移植をする。身体は大人だが、心は子どものベラが誕生し、徐々に言語能力が豊かになっていくのだが。。

 あらすじからして凄まじい設定であることがわかると思います。そもそも完全に江戸川コナンの逆の設定であるこのベラは、一体どう感じながらその身体を動かしているのか、それはこちらでは想像するにも限界があるといえます。ただ、大人の身体だからか、言語の吸収は著しく早く、徐々にベラは名実ともに大人になっていきます。当然彼女は自分が何者か、この世界は何なのかを知りたくなり、外の世界に出たいと言い出します。そこで、世界の冒険に誘ってくるのがマーク・ラファロ演じるダンカンです。誰がどう観てもこの男はベラの大人の身体を狙って誘っているとしか思えなく、案の定旅先で情事をやらかしまくります。ベラも精神はまだまだ子どもであり、常識も羞恥心も知らないわけですから平然と、いや興味を持ってそれに乗っていきます。恐らく今作の3分の1は情事のシーンや売春宿が舞台となるシーンなのではと思え、切り取って観れば何の映画を観さされてるのかと思ってしまうでしょう。

 しかし、このベラの気持ちは意外にも重要です。我々は食欲や睡眠欲、そして性欲を日常的に抑えて生活をしているため、生物的な観点でいうと本能に逆らって生きています。なぜ本能に逆らって生きるのかというと、そうしないとこの世界で社会的に抹殺されてしまうからです。そもそも我々が空想する「良き社会」とは「人間の本能を抑制した上で成り立つ空間」と解釈できます。本能を抑制することにより、豊かな生活ができるのも事実です。だから、このベラの本能のままの行動は異常としかみれないのですが、設定としては彼女の精神年齢は6歳やそこらなのですから仕方ない、と思えてしまうのです。なんなら、本能を抑制しすぎて社会からの目を気にしすぎている我々が哀れなのでは?と思えてしまう節があり、なかなか深いなと思わされました。

 さて、今作は音楽と映像も秀逸です。音楽は何が素晴らしいかというと、全編の8割くらいは不協和音による不快な音楽なのです。明らかに聞いていて不安がよぎったりストレスが溜まる音質なのですが、それは今作の世界観、ベラの心境を見事に射抜いたものであるため評価せざるを得ない。逆に、ベラが最も輝いているところは聞き心地の良い音楽が流れ、鑑賞者は安堵するのです。
 また、映像も最初はモノクロなのですが、ベラが冒険にでてからは鮮やかなカラーに切り替わります。船上やパリの映像は非常に美麗であり、ベラの好奇心を色で表したかのようです。

 先述した通り、大手シネコンが上映している作品群の中では稀に見るほどの仰天シーンが多く、知人に軽々しく勧められる映画ではありません笑(これを普通に勧めまくっていたら変態だと思われそう笑) 系統は全く違いますが『ミッドサマー』かそれ以上とたとえたらわかってもらえるでしょうか。ただ、それほどのシーンがかなり多いのに不快にならないのが不思議であり、何ならベラの探究心が純粋すぎて最早笑えてしまいます。凄まじいシーンを観さされてるのにもうギャグシーンとしても捉えてしまえるのです。売春をし続ける理由が、多様な男をこの目で確認したいからとかストイックすぎてもう。。笑

 かくして圧倒的な経験値を踏んだベラは最終的にはロンドンに帰ってくるのですが、最後まで楽しませてくれる作品でありました。もう一度言いますが、あまりにも情事のシーンが多いので万人に勧められませんし、誰かと観に行くものでもなさそう。間違えてもカップルと観に行くことなんてしないように笑 それでも、アカデミー賞をとっても文句はないなと素直に思いました。こんな役を演じたエマ・ストーンに拍手を送りたいです。あ、あと不憫な扱いを受けたマーク・ラファロ演じるダンカンにも。。(爆笑)
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