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哀れなるものたちのKEKEKEのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.0
- 設定や世界観が奇妙ではあるけれど基本的なテーマはシンプルに生と愛についてで、多くの人間からそれぞれ違った形で愛されたベラという女性を、客観的な立場で描いている作品だった
- 冒頭、社会から隔絶された人間の振る舞いとどこか現実と異なる常識に満ちた屋敷を描いている点で籠の中の乙女を彷彿とさせるが、徐々にこれまでのランティモス作品にない奔放さが顔を覗かせ、映像作品として新鮮で楽しくハッピーな体験ができる仕上がりになっている
- 実験の被検体としてベラを創った男性がゴッドという名を冠しているように、この物語は創造主、あるいは作者の検証的な目線が多分に含まれているのではないかと感じた
- 「自立的な女性」というテーマで、主人公を逆コナンくんに設定することによって、人間のプリミティブな性質を明らかにし、逆説的に女性が持つ生得的な性質と後天的な性質を分解して提示している
- 冒頭の白黒映像で描かれる場面がベラの生得的な性質を描いているとすれば、その監禁に近い実験動物としての生活の中でベラが性に目覚め、外の世界に憧れ、冒険に出たいと願いモノクロからカラーに変わった後のシーケンスは、社会に出た彼女の逞しい成長の物語
- ベラはそれぞれ主張や哲学の異なる様々な人間と出会い、主体的に思考し、経験しながら、理知的で自立した女性へと成長していく
- 突飛に思える設定はベラの知的好奇心と、それを満たすための冒険を、物語の初期段階で両立させるために必要不可欠である
- また、ベラの成長が身体的な発育を伴わないため、エマストーンが1人で女性の半生を描くことが可能になり、そもそもこの原作がかなり映画的な作りをしているのだろうと思った
- エマストーンのまさに体当たりといえる演技は、ベラの人生にも重なる部分があり、ぐっとくる

- コメディとしてギャグがとにかく冴えていて良かった
- 屋敷内を歩き回るキメラ動物
- 壮大なクラシックをバックにした熱烈ジャンプ!
- 晩餐会→ゴッドの泡ゲップ🫧→パァン!ずっと笑ってた
- ランティモス恒例のダンスシーンも今作が最もパワフルで、ベラがそれを踊る必然性があるのが楽しい
- 記憶喪失もので前の肉体がなにをしていたかみたいな語り口、いろんな作品、直近では一ノ瀬家の大罪が頭をよぎるけど、今作が特異なのは宿主としての脳みそが完全に入れ替わっているから、前の体の持ち主が何をしていたかは好奇心の対象でしかなく、例え罪を犯していたとしても彼女は彼女、私は私で新しい生を生き直せること
- しかしそれは転じて母親のカルマを背負う子の構図にも置き換えられ、元夫の待遇を決定するのも、そこから解放されるのもまた彼女の自由と言えるのだろう
- 肉体の空虚さ、思考することの尊さ、人間という生命体を象徴する部分がどこにあるのかを実験的な設定でもって可視化した

- トラディショナルかつ斬新な、どこかスチームパンク的でもある並行世界は、作品に踏み込めば踏み込むほどその極彩色に目を奪われ、現実的な倫理観との境界線があやふやになる
- 前作でも特徴的だったワイドレンズでの撮影、今作では唐突なズームインが多用され、画面に新鮮な違和感をもたらしていた

- ヨルゴスランティモスが予算を持ったらきっとこんな作品ができるんだろうという感じで、多くのファンに念願の、期待を裏切らないクオリティ
- 束縛→解放の流れは、原作があるとは思えないほど、これまでの彼の作風に準拠しているが、前作から脚本で携わっているトニーマクナマラが作品に与える人間的な温もりと、恐らく原作がもつ開放的で自由な表現が、彼が作る画面に新鮮な空気を作り出している

- 一度死んだ人間が生前の自分と少しだけ関わりながら新しい生を生き直す
- 常識や慣例、差別や偏見に抗い、残酷な世界で徹底的に現実を見つめながら主体的に自立を勝ち取る女性を、目に新しい映像表現で実現した傑作
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