メッチ

哀れなるものたちのメッチのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.9
人を愛することは受け入れて見守ること。色んな思想に真っ向から向き合っていた現代的な作品。

エマ・ストーンが演じる主人公ベラは人造人間。物語の初めは知性が赤ん坊同然。だが、好奇心旺盛な彼女は吸収力が凄まじく、知性は並みの人々とはかけ離れてしまうほどに。本作の舞台は蒸気機関などが発展したif(イフ)の19世紀の世界ではありますが、物事の考え方や捉え方は現代的だと思って鑑賞していました。
本作をざっくりいえば、女性版フランケンシュタインといっても過言ではない。
それに、フェミニズムと恋愛と結婚の考え方。それと「子供に過保護になってしてしまう親の愛は本当の愛なのか?」について、真っ向から向き合っていた作品だったかと思います。
こうやってみてみると、扱っているテーマも現代的でしたね。

ただ、本作の前半に主人公が快楽に目覚める描写や、中盤の自力で稼ぐために娼婦になるあたりに性的な描写があり、それが本作の賛否両論になる要因だと思います。確かに、直球過ぎなぐらいの性的描写が目立っているように思いますが、世の本質に触れるためには切っても切り離せられない概念だから仕方がない。三代欲求の1つなのだから。
性的描写はあくまでエッセンスというか、表面上だけでみれば目立つ要素の1つなだけであって、深層はもっと過激的だったかと思います。
そんなことよりも、世界の構造上は貧富の差があることで成り立っているという現実。自立するために、自らの力でお金を稼ぐために娼婦になるのはいけないことなのか?とか。結婚とは、結婚相手の所有物の1つになるための行為なのか?など。フェミニズムだけを掲げているわけではなかったし、アナクロニズムもソーシャリズムも触れていたかと。ここまで物事の本質に真っ向から向き合っていたのは、あまりみていなかったものですから新鮮に感じていました。

何より、ベラとゴドウィンの血は繋がっていなくとも、娘と父親同然の関係になっていく過程がとてもみていて良かったと思います。
本作を作られたヨルゴス・ランティモス監督は、親と子を描くのが繊細な印象を持ちました。監督の過去作『聖なる鹿殺し』でも、一家が呪われていく様を描く最中、主人公が現実を受け入れられずに息子が嘘をついていると決めつける様がとてもリアル。幼少期に体験していたのか?と勝手に考えてしまうほど。そう考えると、本作のベラとゴドウィンの関係の行く末は、監督自身何か落とし込める出来事があったのでしょう。お決まりのようでお決まりではないというか、リアルにみえてチープにみえない。そんななんとも言い難い良さがありました。

最後に、本作の鑑賞を終えて本作のタイトルの意味を考えてみました。本作タイトル『哀れなるものたち - POOR THINGS(直訳:かわいそうなもの)』から考えると、主要キャラ全員が哀れなるものたちだったのは確かでした。ただ、間違いに気が付く注意力、知識や価値観を取り入れる吸収力、あらゆる文化や価値観を受け入れる寛大さなどなど。生きていく上で、これらを養っていかないと本当の「哀れなるもの=かわいそうなもの」になりさがるのではないのだろうかと痛感した次第です。
これは、本作の舞台はif(イフ)の19世紀でしたが、21世紀の今でもほぼほぼ考え方は同じで、それに気が付かずに登場キャラたちを笑ってみていた今日だったら、明日は我が身という意味ですね。
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