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哀れなるものたちのpepeのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.1
映像、音楽、衣装、なにもかもが現実離れした歪んだ世界で、唯一エマ・ストーンの凛とした視線だけが終始揺るぎない。

幼女のような知性しか持たなかった、存在さえもが「所有物」だった彼女・ベラが、男性のただの「お遊び」として世界に連れ出され、皮肉にもそれをきっかけに知性と自立を獲得していき、知らず男性を凌駕していき、未来を獲得していく。その変化を、台詞の言いかたや歩き方、所作のひとつひとつで演じきったエマ・ストーンがとにかくすごかった。

とかく性描写の多い映画だけれど、そも彼女は大人であり、持ち得ていた本能として快楽の存在を知ると、羞恥という知性を得なければ、あれほど明け透けにふるまうのも理解できるとは思う。序盤でホットパンツのようなインナーをすぽーんと脱ぎ捨てて下半身をあらわにした場面なんか、どこから見ても幼児性の表れで、その幼い行動と快楽を求めるという目的のちぐはぐさに、おかしみと哀しみも感じはした。そしてその行為を繰り返すうちに、自分の身体は自分のものだという自意識が芽生え、成長していく、そのプロセスも描き方としては理解はできる。
……ただまあ、多かった、身体張りすぎてた、とも確かに感じはした。

そっちに意識が引っ張られがちになりはしたけれど、ファンタジックながら印象強く美しい衣装や、ありえない造形の建物や内装、そしてそれを映し出す魚眼レンズのような特徴的なカメラなど、なにもかもに歪みがあり、ただ観ているだけで圧倒される迫力がある。ずっとなにを観ているのだろうと思わされ続けた。

ひとりの女性が自立していく話、と短くまとめればそれだけなのに、あれもこれも普通ではないパーツで組み立てて、しっかりとまとめ上げてひとつの作品として描くことができれば、こんなにも濃い作品になるものかと驚くばかりだった。
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