故ラチェットスタンク

哀れなるものたちの故ラチェットスタンクのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.0
すげえ分かりやすかった。無邪気さ→好奇心→三大欲求の発見→知識への傾倒→政治的な思想形成と実践→自己規定、とサーっと捌かれてカチッと終わった。細かいところを難しい顔しながら沢山語れるだろうけど大まかな輪郭はクッキリしてると思う。これで150分か。上手い。

ダークな寓話っぽいルックもガチガチに手が込んでるし、シュールな世界に観客が飛び込んでいく体験がそのまま「外の世界を知る」ベラの目線とガッチリ接続されるのも見事。「知らない場所に行く」体験が出来る。

濡れ場は必要以上に扇状的じゃないというか寧ろ笑える感じまであるけどちゃんと生々しい質感。過去作でも自然体なヌードの撮り方が好みだったけど一切変わらず保全されていて、言うまでもなく良かった。レーティングがキチッとかかってる分リミッターも解除されてて良かった。モザイクがあると絶対趣旨がブレたと思う。魚眼レンズや覗き穴みたいな画面遊びも多い。『女王陛下のお気に入り』でも使ってたけどシュルレアリスムな画面との相乗効果はダンチ。黒が生きるショットも多かったりして表現主義みたいだなと生意気なことを思うなど。一方通行の廊下をキャラクターが歩いてるシーンでガーっとカメラが後ろに引いてく画もあってサイコー。

これだけお金のかかった内容で話も分かりやすいのにちゃんとR-18が必要な内容なのがまた凄い。アートとエンタメの両輪。エピソード毎に「ここは○○を学んで実践していくパートですよー」とガイドラインが引かれているようで要点を失わない。ストーリーテリングが滅茶苦茶エンタメ然としている。エマ・ストーンの舌がどんどん回っていくのが格好良かった。あとデフォーが可愛かった。うん。可愛かったな。

ただ噛み砕きやすく作ってある分、謎の気まずい会話とか「これ何のくだり?」と思うような常軌を逸した生理的な気色の悪さは大分オミットされていて("良識"を持たないベラが主人公な分、ストーリー文脈としては正しく機能しているけど)そこは悲しいというかしゃーなしかあーと。『聖なる鹿殺し』のスパゲティのくだりみたいな底の知れない「マジでコイツ何なんだ」タイムも保全して欲しかった感じもあるけどランティモスさん今回脚本書いてないっぽいから大概お門違いだと思うので口を閉じます。過去作の見てないヤツ履修しないと。