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哀れなるものたちのssのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.6
エンドロールカットまでびっしりとサブリミナル的に見せつけてくる性器のモチーフからも、この物語は男性の所有欲への批判が目的なのが伝わる。胎児の脳を移植された母親が夫の支配から死をもって逃れようとした結果、母親が生きることが出来なかった「男からの肉体的、精神的支配から解放された人生」を、娘が母親の体を借りて生き直す物語。ベラは博士の豪邸で匿われている間も自由を手にできず、外に出ようとすれば力づくで戻される。そしてその博士も、父親の肉体的支配によって宦官のサイボーグに変えられてしまっている人間。しかし、その博士の"正しい"父性によって、ベラはついに支配から解放された自由を獲得し、単調なモノクロな世界から色付いた世界へと切り替わる。リスボンでは「肉体的自由」を、船では「精神的自由(知性、知識)」を獲得し、学んだことを培ってパリでは「社会的自由(生計を立てる、教育を受ける、友人を持つ)」を獲得し、これまで男性からその尊厳を奪われ、支配されてきた歴史から"自由"を奪い返す。
この世界は過去なのか未来なのか。明らかに今いる世界線の延長であるのにいつなのかが明記されないところに、"神話のようなありえない"現実への揶揄のようにも捉えられる。
魚眼レンズを使った絵の作り方や、「燃ゆる女の肖像」のような絵画的なズームやカット、「アネット」のような神話的ダークファンタジー感あるセットやVFXが独特の世界観と絵を作っていた印象。
ラストまでこの物語の仕組みを明かさずにここまで引き付け、観客を離脱させずに最後に全ての過去の清算を行うラストの持っていき方(脚本の作り方)に驚いた。あのラストは勧善懲悪にも見えるが、あらゆる支配欲求に駆られた将軍を、生物的な基本欲求である"食欲"だけにまで削ぎ落とされた「ただ草を食らうヤギ」に変えられてしまったカットを見た時に、彼のある意味での救済のようにも見えた。その意味でも、ベラが初めて持った友人が社会主義者であったことは、人間の支配欲、独占欲で成立する資本主義へのアンチテーゼにも思える。

2024 #9
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