ぶみ

哀れなるものたちのぶみのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
2.5
自由に生きるって、最高じゃない?

アラスター・グレイが上梓した同名小説を、ヨルゴス・ランティモス監督、エマ・ストーン主演により映像化したイギリス製作のファンタジー。
天才外科医によって生き返った主人公が、大陸横断の旅に出る姿を描く。
原作は未読。
主人公となるベラ・バクスターをストーン、彼女と旅をすることとなる弁護士ダンカンをマーク・ラファロ、彼女を蘇らせた外科医をウィレム・デフォーが演じているほか、ラミー・ユセフ、ジェロッド・カーマイケル、クリストファー・アボット等が登場。
物語は、明確な提示はされないものの19世紀と思しき別世界で、外科医により脳は胎児、身体は大人となったベラが、婚約をしつつもダンカンとともに旅に出る様が描かれるのだが、やはり、本作品で目を引くのはその世界観で、アールデコ調に彩られてはいるものの、独特の色調であり、文明の進化についても謎な点が多く、不協和音のようなメロディーが奏でられる劇伴もあいまって、なかなかシュール。
ただ、その世界観に引き込まれたかというと、また別の話で、ファンタジーが苦手な私としては、冒頭早々にあるデフォー演じる外科医が、謎の泡を吐き出すシーンで「あっ、無理かも」と感じたせいか、結果としてはそこまでファンタジー感は強めではなかったものの、結局最後までのめり込むことができなかったのが正直なところ。
反面、物語自体は思いのほかシンプルなもの、かつストーンの精神的に徐々に成長していく演技はもとより、他のキャスティングも文句なしであることから、わかりやすさをシュールな世界観と奇抜なSFかのような設定による変化球で包み込んだものとなっており、バランスとしては決して悪くなく、作品としての完成度は高い仕上がりとなっている。
本作品で特に言及されるであろう、ベラの性の目覚めからの娼館の描写については、時代設定は違えど、年齢問わず様々な性癖を持つ男性を仕事として相手にする展開が、昨年末に観たアニッサ・ボンヌフォン監督『ラ・メゾン 小説家と娼婦』に通ずるものであり、同作品で耐性ができてしまっていたせいか、比較的大人しい表現であったことも相まって、官能的とは程遠いものであるとともに、そもそも、ストーンのルックスがもともと私の琴線に触れるものではないことから、これもまた惹かれることはなかった次第。
その独特な色調や、魚眼レンズで覗き込んだような映像が特徴的ではあるものの、ファンタジーや古典文学、はたまたアート系の作風が苦手で、美術館に入っても立ち止まらずに、ものの5分で出てきてしまう私としては、現代の物語として描いた設定で観たかったと思うと同時に、ベラを演じたストーンよりも、ベラのある行為を日本語字幕で「熱烈ジャンプ」と表現した松浦美奈さんをぶっちぎりの優勝としたい珍作。

冒険し、砂糖と暴力を知った。
ぶみ

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