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哀れなるものたちの人間代表のレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
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まず画が面白い。曲面レンズとか覗き穴的見せ方とか、基本的に低い位置のカメラとか、極端にスピードを出す編集箇所とか、見どころたくさん。衣装も素晴らしいし、作り込まれた舞台と書き割り感のある引きの絵も素敵。

ストレートかつ教科書的なフェミニズム映画として賞賛する向きもあるみたいだけど、畸形・奇矯・おぼつかなさを愛でているというところに注目すべきでもあるなと思う。最初からキメラ的動物とか、馬の首だけついた馬車とかがなんの説明も無しに、しかし十分にウィレム・デフォー演じるマッドサイエンティストのキャラクターを説明するように登場し、一貫して「なんか可愛い奴ら」的に映される。そうした「愛でる」視線はそのまま序盤のエマ・ストーンのおぼつかない歩き方や幼児的な喋り方、暴力性など洗練された社会にとっての欠落の部分へと向けられる。すでに洗練されている側、社会的規範にノってる側の人々はそれを彼女の保たれるべき個性や美点とする。これと重なるように、ベラのめちゃくちゃなダンスや、ベラの代わりの女性の全てに対するおぼつかなさや、畸形の動物たちは「なんかかわいく、もしくはいい感じで」映されている。でも全体のストーリーはベラが教養を身につけて前世より続く束縛から自由になる、というものなので、ここに捩れがある。つまり、全体で見たらベラのインテリ的成熟を言祝ぐようなものになっているが、その過程で失われた畸形さや逸脱的性質、幼さのようなものをかなり愛でつつ進んでいるのである。まあこうした捩れがあるから直ちにダメというわけでは勿論ないし、興味深いと思うだけなのだが。

途中にベラがハリーに「世界の真実」を見せられるところで胸が詰まった。あったかい映画館で2時間半もスクリーンを見て多幸感に浸っている間にガザの子供は「溝で死んでいる」のだと思うと、どうしようもなく暗い気分になる。しかしその後で、世界の酷さから心を守るためにリアリストを気取るのも手だけど、なんか別に世界を改善する方法はあるはずなんだ、という態度を肯定的に描いていたのは本当に良かった。まあこの映画にそういう気持ちを慰められている場合ではない。何ができるだろうか、と、なんかしなきゃ、との間にずっといる。
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