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哀れなるものたちのhasseのネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

ランティモス最新作、ヴェネチア金獅子賞というだけあって観る前から期待値を上げすぎたかもしれない。
エマ・ストーンのパワフルかつ繊細な演技、スチームパンク的な世界観(リスボン大好き)、ベラが性的快楽や哲学を学び自分なりの世界の改善方法を模索するロードムービー的な要素と、惹かれる要素は沢山あるのだが、トータルで考えた時に個人的ランティモスベスト『聖なる鹿殺し』ほどの感動は得られなかった。
ゴッドやダンカンといった家父長制的な価値観を押し付けてくる男性の管理下から逃れて自由に生きる道を探求する、という主題は分かりやすく共感を得やすいが、今まで奇々怪々なことをやってきたランティモスにしては随分トーンダウンした、というか大衆寄りになったなという印象。それ自体はいいけれど、結果『聖なる鹿殺し』のような輻輳的な構造や、『ロブスター』『籠の中の乙女』で出てくる理解を受け付けないおぞましいキャラクターは影を潜めてしまった。(息子たちに性教育したいためにパリの娼館を訪れるモブはいかにもぽいなとは思ったが)
よくも悪くもどのキャラクターも感情や行動原理が理解できてしまい、また、ストーリーラインの進行の中に埋没してしまっている。結果、ゾワゾワ感情を揺さぶる名状しがたい恐怖や不安を植え付けられたまま映画を観終わる、というランティモスならではの映画体験は失われてしまった。
女性の自由、みたいなテーマにとどまらず、「自らの赤子の脳ミソを移植された母親」という存在そのものにもっとフォーカスしたストーリーを組んだら独創的な映画になったんじゃないだろうか。

でも、面白く見ようとしたら絶対にもっと違う見方があると思う。繰り返しになるが私がランティモスの作家性信者すぎただけだ。

『女王陛下のお気に入り』でもエマ・ストーンは貴族の服装でパンクなダンスを披露していたが、今回も見事に炸裂。まだおぼつかない足取りだからこそのぎこちない、しかしどこかベラの持つ芯の強さや美しさが惜しみ無く溢れるダンスは圧巻。超好き。
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