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哀れなるものたちのmemのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.4
メインビジュアルが公開された時から楽しみにしていましたが、本編の多岐にわたるクリエーション全てが予想を凌駕していた。
「誰にとって」、「何が」、「哀れ」なのか?観る人の価値観で揺らぎそうなのもまた一興。
あまりに残酷で美しく、崇高で穢らわしい。人生や世界を一言で表せる言葉が存在しないように、この作品を一言で表せる語彙が私には未だ、無い。

人間存在の成長過程において、人はどのような環境で何を見て育ち、どんな言葉を覚えてどう振る舞うか。格差や溝が絶えることはないこの世界で、生きていれば向き合わざるを得ない「どう生きるか?」に正面から出会いに行く冒険譚。理性と本能のバランスが保てる大人が大人であるということか。

新鮮さを宿すエマの表情が凄まじく、赤子が生まれてから出会うすべての「初めて」に恐れ歓ぶ様を見事に表現していた。あまりにピュアなものが、ともすれば蠱惑的に受け取られるおぞましさもありつつ。そして、それが成長につれ何に悦びを見出すかという視点に変化し、世界を選んでいく。そう、この自ら選び取る世界で未来を創造する姿、これこそベラ・バクスターの体現するところ。人の手でクリエイトされたある種モンスターであっても、帰って来られる場所があれば愛の中で育てるのだなと。
個性の方向が異なる多様な人間や掛け合わせのキメラ、はたまた人によって異なる性癖の羅列により、生きるとは何か?愛とは何か?そもそも人間とは何か?そんな問いを随所に散りばめている。まっさらな脳が学習する、窮屈な先入観や偏見の外側から純粋な疑問を提示するベラ。そうして人生において追い求めるもの、どこに価値を見出し生きるかという、誰もが経験する恐ろしさに勇敢に立ち向かう自分軸の美しさが強烈に残っている。知識欲が何事にも勝る瞬間の顔が好きだった。そんなベラが選んだラスト、初めて味わうような爽快感でしたね…。

エマ・ストーンの無垢さに感嘆し、そして至高の色彩感覚を脳に焼き付け、麗しきインテリアとコスチュームに溜息をつき、気づけばパンフレットを手にして映画館を後にした。じっくりこの映画の主題について考えたい
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