バンバンビガロ

哀れなるものたちのバンバンビガロのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.9
アラスター・グレイによる原作の『哀れなるものたち』は数年前に読んでいたのだがだいぶ話の筋は忘れていて、この映画を見て、そういえばこういう話だったという所とこんな感じではなかったなという所が半分ぐらいあるという印象を受けた。
登場人物の設定や大まかな話の流れは原作を踏襲しているがゴシックSFファンタジー的な世界観やビジュアル、シュールでコミカルな雰囲気や性的に振り切れた描写が全面に押し出されているのはヨルゴス・ランティモス監督のセンスによるところであろうと思う。
原作と共通で重要な要素だと思われるのはやはりこの作品がメアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』に対する批評的な側面を持っているという所で、『フランケンシュタイン』における人造人間が創造主から見捨てられ、人々から忌み嫌われ迫害された末に殺人鬼へと変貌してしまうのに対して、本作の人造人間ベラは"愛される"人造人間で、創造主の博士や周囲の人間からの愛を受けて人間性を獲得していくという形で、ちょうどネガとポジが逆転しているような話になっている。
また本作は身体の自己決定権を奪われ自殺した女性が(かなり変則的な形で)生き返って、世界や社会を知る中で自立した人間に成長していくという話でもあり、かなり直球のフェミニズム的寓話としても観ることができる。
そのような人間全般への肯定的なメッセージ性を持ちながらも、ゴドウィン・バクスター博士や彼の父親とのエピソードが語る過激なまでの進歩主義的な思想やラストの夫への残酷な仕打ちなど毒性の強いギリギリのユーモアとアイロニーがふんだんに盛り込まれていて、単純に首肯するのは難しい複雑な後味も残る。
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