アー君

哀れなるものたちのアー君のレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.8
封切り当日にでも劇場に足を運ぼうかと思ったが、鑑賞日が水曜であればサービスデーであれば、料金が浮くので数日間お預けにして本日の鑑賞となった。

原題は「POOR THINGS(可哀想なもの)」邦題にするのであれば〝哀れなる〟というタイトルの方が確かに日本的である。

【↓以下はネタバレ↓】














原作のアラスター・グレイの小説は未読。
子供の脳を持ちながら身体が大人の女性であるベラと周辺の男性(婚約者マックス、愛人ダンカン、元夫ブレシントン)たちは、封建的な男性主観の女性性に対象を求められるが、世界を旅する事で様々な人間と出逢うことで経験をして学び、本来のあるべき女性として生きる道を探る成長譚(たん)である。その背景には監督ヨルゴス・ランティモスが好む実存主義以降のポスト・モダンとフェミニズム(女性解放)が混ざり合った世界観が優雅に描かれている。

気になったところでは、ヨルゴス・ランティモスのクセだと思うが、広角レンズの使い方が少し鼻についたのと、ストーリーの流れが平坦とまで言わないが、元夫に再会するまで起伏があまり無く、少し冗長な印象がみられた。(性的な行為も人によっては露悪的に描かれている。)また最初はモノクロで回想シーンをカラーにするくだりはアイデアとして百歩譲って理解はできるが、ダンカンと出会って旅立つあたりから急にカラーで通して行く流れの規則性に違和感があった。それならばすべてカラーで通しても問題はないと思うし、綺麗な色調だったので無彩色のシーンは必要はなかった。

旅の途中で出逢う老婦人マーサと若い黒人男性の年齢の離れたカップルは、ファスビンダー「不安は魂を食いつくす」のオマージュである。マーサ役の女優ハンナ・シグラはファスビンダー作品「マリア・ブラウンの結婚」に出演。

余談として頭部(脳)移植については、手などは昔から成功を収めてはいるが、やはり移植後は異物としての認識があり、拒否反応により結合された手がNK細胞等から攻撃されるため、免疫抑制剤は常時欠かせないらしいのでマイナス面もある。それが脳となると実験として猿では行われているらしいが、倫理的な側面もあり、現在の医学でも難しいのが実情らしい。

アカデミー賞について。監督賞、美術賞、衣装デザイン賞、主演女優賞、助演男優賞などがノミネートされているが、個人的にはダンカンを演じたマーク・ラファロには獲ってもらいたいが、他のノミネートされた助演俳優の映画をすべて観ていないので判断はしかねるが、演技力に差し支えなくとも決定打に欠けているのも事実としてある。それ以外の賞候補として、この舞台である世界観には御伽話の雰囲気や近未来が混沌としたセット美術と独創性のある衣装には美的感覚が優れており、おそらく美術と衣装デザインで賞を獲れるのではないかと予測はしている。(ノーラン「オッペンハイマー」が未見で、下馬評が高いので飽くまでも私見である。)

ポスターは海外版だと数点あるが、国内で刷られたデザインが鮮やかで無難だと思うが、デザイナーのヴァシリス・マルマタキス (Vasilis Marmatakis)は基本的に若干くすませた生成り色にホワイトスペースを活かしたシュールなデザインを得意としており、ヨルゴス・ランティモスの映画による宣伝広告として切っても切れない人物である。

エンドクレジットでタイポグラフィを上下左右に配置するデザインは「The Color of Iris」の映画ポスターの影響が伺える。

〈ヴァシリス・マルマタキスのHP〉
https://marmatakis.net

[イオンシネマ板橋 8:30〜]
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