地底獣国

哀れなるものたちの地底獣国のレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.7
もう少しで刺さるところまで行ったんだけど、惜しいな(何様)。

自分の中で一番引っ掛かったのはパリの娼館での日々。それ以前も以降もベラの前には様々な(男社会の)良識だの社会通念だのが立ちはだかり抑圧しており、当然ながら娼館というのも抑圧的システムのひとつのはずだが、そこで彼女が見せた抵抗は「女が男を選べるようにすべき」と発言したぐらいで、それも女主人に「それだと経営が成り立たない」「孫の治療費稼がないと」と言われて引き下がり、結局普通に客取ってるという…

で、(彼女を「作った」)ゴドウィンが余命幾許もないから戻って来てくれ、という手紙を読んだら次のシーンでもうロンドンに戻ってるのも何だかなぁ。そこやっぱり引き留めようとする女主人と話し合うとかの場面が欲しかった。

とはいえ寓話、そして思考実験として興味深い話だったし、あのtoxic masculinityの権化みたいな野郎への対処が痛快だったんで全体としては楽しい映画。「女王陛下のお気に入り」の方が好みではあるけど。

余談その1:ウィレム・デフォー演じるゴドウィン・バクスターはマッドサイエンティストだった父親の実験台にされ、長じて自らもマッドサイエンティストになりベラやフェリシティを「創造」するに至ったという、つまりヴィクター・フランケンシュタインでありクリーチャーでもあって、それを反映した相貌という事(関係無いけどロイヤルナショナルシアターの戯曲ではヴィクターとクリーチャーをベネディクト・カンバーバッチとジョニー・リー・ミラーが交互に演じていた)。彼のファーストネームのゴドウィンはメアリー・シェリーの旧姓から取られており、彼女の父ウィリアムはメアリーを過保護に育てていたが娘は妻子ある男パーシー・シェリーと恋に落ち駆け落ちした、というエピソードが本作序盤の元ネタらしい。

その2:マーサ(マルタ)婆ちゃん素敵💓もしマリア・ブラウンがあの爆発を生き延び齢を重ねたらあんな風になるのかも(時代設定全然違うけど)。

その3:馬車と見せかけて実は蒸気機関、とかのくだらない小ネタ結構好き。
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