さるたま

哀れなるものたちのさるたまのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.8
「子どもの脳を持つ大人の女性」の物語。
パンフレットまで買った程ハマった映画。
但し、確実に人を選ぶ作品なのは間違いない。
観る人によっては卑猥で下劣で堪らなく不快になるかも知れない。

ヨルゴス・ランティモス監督作品を初めて鑑賞した。
代表作の「噂」は知っていたし、これまでの作品には殆ど興味を持たなかった。なのになぜ本作を鑑賞したのか?
それは偏に予告やポスターのビジュアルに惹かれたからだ。
特に古風なヨーロッパ風景にスチームパンク要素を混ぜた「奇天烈な世界観」は見事だった。ライティングの良さも際立ち、とてもセットとは思えない規模感が出ているのも素晴らしい。また、主人公を中心にした衣装やヘア・メイクも非常に美しくて愛らしい。

自ら命を絶った主人公は、マッドサイエンティストの「実験体」として、孕っていた胎児の脳を移植され蘇生した。身体は大人だが頭脳は未発達なので、体感する全ての事象が新鮮な驚きに満ちている。然も恐ろしい早さで「(世俗的な)善悪」や「知識」を学習し成長して行く。この変容する知性を、グラデーションのように表現するエマ・ストーンの演技力が凄まじい。成長の最中で性に目覚め、性の悦びに酔いしれてしまうのも、生きることの喜びや幸せの証。彼女は女性に制約を強いる封建的な「社会」を知らずに育った。故に世界から解き放たれた存在であり、人々の「目」など無関心で自由を謳歌する。本作は特にエキセントリックな性描写が多いため、此処に嫌悪感を抱くのも理解できる。
ただ、「性行」そのものが快楽のみならず、欲や愚かさ醜さと言った人間の本性を曝け出す鏡でもある。然も性描写が全くエロティックに描かれていないところもユニークで寧ろアート的だと感じた。

科学者の「籠の中の鳥」として生き返った主人公が、外で見た世界は実に残酷な場所だと理解する。無垢だった主人公が、男女の愛や様々な欲望、格差、性差別、妬み、僻み、怨み、辛みを経験することで、人は皆「哀れなるものたち」だと知る。
本作は社会通念を疑い、皮肉たっぷりなユーモアで笑い飛ばす。実に奇抜でユニークな体験を通して、世界をサヴァイヴしながら「人間の自由」を得る「奇妙な愛」に溢れた怪作にして傑作!
但し、複雑怪奇な構成所以、1度の鑑賞で理解できたとは到底思えない…。
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