moo

哀れなるものたちのmooのネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

【あらすじ】

この世に絶望し、身投げをした不幸な若い女性が風変わりな天才外科医で科学者のゴッドウィン・バクスターの手によって“彼女が身ごもっていた胎児”の脳を移植され、別の人物として奇跡的に蘇生する。

大人の身体に胎児の脳を持ったアンバランスな状態でベラ(ベル)と名付けられた彼女は、その不完全さから精神障害のある痴人のような振る舞いを繰り返すも、日に日に驚くべき成長を遂げていった。

性への驚きと快感を知り「世界を自分の目で見たい」という強い欲望にかられた彼女は、放蕩者の弁護士ダンカンと駆け落ちし、大陸横断の旅に出る。

大人の体を持ちながら新生児の目線で世界を見つめるベラは、無知ゆえの純粋さもあり、時代の偏見から解放され、平等や自由を知る。

次第に世の中の悲しみや暗い部分に触れ、変化していくベラ。己の冒険を続ける彼女の元へゴッドが大病であるという知らせが届き……。

登場人物全てがどこか皆「哀れな…」と感じる、SFで問題作な1人の人間の成長奇談。


【感想】

愛とは?魂とは?創造の御伽話。

愛とは…の原液が詰まったワインボトルで後ろから頭を殴られて割られ、何が起きたのかわからない、ような映画だった。

な、なんてもん見せてくれとんじゃあ…!な、2時間ちょい。

エマストーンの演技、胎児から知性が育っていく過程が美し過ぎた。

最初のベラの正体(胎児の脳を移植された女性)を知った時の鬼束ちひろの歌みたいな展開じゃねえか!から、まさか闇に染まらないハッピーエンドな方向へ収束していくとは思わなんだ。

個人的には見れてとてもよかった。


…が、これ、ミニシアターでひとりで夜に見るタイプの映画だと思うんだけど…なんでこんなバンバン押されてるんだろう。

僕のエリと同じく、原作読んだほうがいい気がする映画だなあ…。
(というか、内容は全然違うけど、遥か昔、満員御礼のミニシアターで僕のエリを見た時を思い出した映画だった)

一般ウケしなそうでハマるか苦手かが紙一重な映画な気がする。

ベラの成長の過程を見てる感じなので、セックスシーンでエロさはあまり感じないんだけど、
カップルとか関係性が浅いひとと見に行くにはちょっときまずいと思う。

ところどころの建物の造形などに用いられている性器のモチーフはなんとなく時計仕掛けのオレンジが浮かぶ。
アートで美しくも物悲しいSFな世界観は、ムードインディゴやコングレス未来学会議に近いかもしれない。

映像美はもちろんなんだけど、なんだこれハーモニックパイプ?この音はどうやって出してるんだ?ってのがけっこうあったのでどこかで音の裏話が見れたらいいなあ。


物語の終息へ向かってアドレナリンが出続ける映画ではないのでトイレに立つ人はちらほらいたけど、満員御礼でエンディングまで誰ひとり立たない映画はひさびさだった。

将軍の胸糞悪さがアイアンジャイアントに出てきた将軍を倍嫌な感じにしたような存在。

哀れな部分があるものの、誰1人嫌な人物がでないな〜と思ってたところに投下され、スカッとするようなエンディングへとさらっていって良かった。やっぱり嫌な男はヤギにするに限りますね!
(一瞬、ゴッドをコイツへ移植…?!と思ったが彼への愛と死への尊厳がちゃんとしててよかった)


ゴッドが父性的なモノがもにゃもにゃと言ってるところと船のシーンのダンスがかわいかった。

娼婦のところのセックス指南教室が笑えた。

端端に出るガチョウ犬や犬鳥、豚鳥などのキメラたちがみんなかわいいね。


見終わってから、女性の自立、フェミニズムがなんたらという宣伝や煽りを知ったけれど、
わたしにとっては、愛とは?魂とは? そして自己の創造についての話だった。

終盤のゴッドの「ベラを創造したのは私だが、魂の創造主はベラ本人だ」みたいなセリフがとても刺さった。

中身は胎児だった彼女が最初から歩けていたのは身体の記憶なのか…?どこか身体にひっぱられているのではないかと思っていたが、彼女は立派に自分自身を創造した。

人生の好きな映画の何本かには食い込まないし、感想や反芻がむつかしいのだけれど、間違いなく見れてよかった作品。
moo

moo