雨空

哀れなるものたちの雨空のレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
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橋の欄干から身を投げた女性。女性は亡くなってしまったが身体はどこも傷ついていなく綺麗。本当は蘇生するすべはあったのだが、世を儚んで自殺をするとはよっぽどのこと。そこで蘇生させてもこの女性はただただ苦しむだけだろう。ちなみにこの女性は赤ん坊を身籠っていた。天才外科医は赤ん坊の脳をこの女性に移植し見事に成功した。
体は成人女性。脳(心)は幼児。そんな彼女はベラと名付けられ日々の生活のなかで成長していくのだけれど、様々な理由から外へは出させてもらえない。
色々あって婚約し、結婚前に外に出たい!世界を見たい!と駄々をこねられ冒険をさせることに。

スチームパンクぽい世界の美しさ、人々の衣装の美しさにうっとりするとともに綺羅びやかすぎない妙に落ち着いた印象も受ける。それは人間に楽しい気持ち、嬉しい気持ち、何も知らずただ享受できる満ち足りたものだけではなく、悲しさ、苦しさ、どうしようもできない状況、哀愁といった気持ちもあるから、美しい印象だけでないどこか物哀しい雰囲気があるのかもなと。それを強く感じたのは娼婦館のマダムの言葉。できることなら苦しい思いはせずに生きれたらいいけれど、世の中はそうはできていなくて、否応無しにうまれる不条理さ、人間が抱える不条理さを見せつけられて、なんて人間は哀れでいて、そして愛おしいんだろうとも最後は思ってじぃーんとしてしまった。
女性が自身の喜びを得る。自分の身体を自分のものとして、誰の所有でもなく。そして所有欲というものにたいしても考えたりもして……。
ところどころクスクス笑ってしまう場面が多くて面白くもちょっと切ない気持ちになった。

登場人物のなかでもマーサがとくに好きだったなあ。若い女性にたいして考えること、知識をつけることを教える。パリの娼婦館とはまた違う緩やかなシスターフッドを感じて、船旅の場面はどれも良かった。
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