ねこみみ

哀れなるものたちのねこみみのネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

本当に「哀れ」なのは誰だったのかって話。
すごかったー。美しくて、エネルギーが詰まっていた。

どこで見たのか全く思い出せないけれど、私はこの映画について「男どもが女性を意のままにするために子供の脳を移植する話」と認識していたので、胸糞で二度と見ない作品になること覚悟で観たのだけど、、、ぜんっぜん違った。なんの情報だったのほんとw

序盤はえぐいキメラ的手術を施された奇妙ないきものたちがでてきて、ベラ含めたその対象になってしまったいきものこそが「哀れなるものたち」なのだと思わせる構成。
でも違う。全然違う。

ベラはたしかに何もわかっていない子供の脳みそに成人女性の体でアンバランスだけれど、ベラの周りの人間はそれを利用しようとはしていない。ねじ曲がってはいるが愛を注いでいる。手術も、生きている人間ではなく死体だったのだとわかって少しほっとした。死体ならいいってわけじゃないけど、想像のえぐさは回避。

ベラは少しずつ成長してはいたけれど、ダンカンが登場し外の世界に飛び出してからはそのスピードが一気に加速する。
人間の精神的成長には外界との関わり、コミュニケーション、新しい知識や景色などの刺激が必要不可欠なのだと思い知らされる。

R18シーンの量も多くエマ・ストーンの頑張りに震えたけど、なんというか描き方が「あくまで人間の成長過程で訪れる興味と体の正常な反応」という感覚で、とくに嫌な感じがしない。性的シーンの全てがあくまで「本人の意思」だったのが救いだった。よかったー。

この141分を通して、1人の人間の「幼少期〜壮年期に差し掛かるあたり」までの精神的成長を10倍速くらいで見せられているようだった。
人生早送りしすぎでキャパオーバーで寿命短そう…

かつて死体を躊躇なくぶっ刺していたベラが、うるさい赤ん坊を殴ろうとしていたベラが、外で死んでいる沢山の赤ん坊を見てひどく胸を痛めていたのがものすごく印象的。他人の感情を想像できるようになったということ。
それはやはり、いろんな価値観を持った人との会話であったり、活字を通した精神世界の広がりによるものなんだろう。

終盤、かつての夫への凛とした強い態度。もう幼女の様子は全くみられない。
本当に「哀れ」なのは誰なのか?

それはたとえば、
・愛はあるもののその愛がねじ曲がり執着となり、自己コントロールすらままならないゴッドやマックス
・女性を遊び道具として扱っていた上に、心を奪われ金がなくなったとたんとんでもない空っぽのゴミ男が露呈するダンカン
・恐怖で全てを支配し意のままにできると勘違いしていた夫
・善意の金をなにくわぬ顔でくすめとる船員

とにかく自分の欲望のままに、他人を見下し自分さえ良ければ良いという振る舞いしかできない、立派な成人男性たちだった。

ダンカンは娼婦のことを女として最も最低だ的なことを言っていたけれど、その娼婦を使うのは男なんだが。生きるために自ら選択し娼婦としてきっちり仕事をする女たち。ただただ己の欲望のために金を払う男たち。哀れなのはどっちなんだろうね。

ベラはもといた家に帰ってきたときに「ここにいるのが一番幸せ」と言っていたけれど、それは世界を知って、その上で「人を思いやる心」のあたたかさを理解したからこそ。
経験し、本当の意味で理解するということ。その繰り返しで精神世界を広げることが人生なのだと思う。

ゴッドから真実を聞いたあと、「人生に価値を感じているからそれは感謝してる(嘘をついて騙したのは許さない)」的なことを言っていたのも印象的だった。(雰囲気しか覚えてなくてくやしい、絶対言い回し全然ちがう)
ベラは母の体で生きる子であり、その人生はなかったはずのものだけど、猟奇的ともいえる実験手術によって得られた人生を、自らの手でしっかりと意味のある美しいものにしていっていた。
人生は、自分の力で豊かにすることができる。

そして、まーーーー映像の美しいこと!
ファンタジックなビビッドカラーの映像美、ポルトガルのかわいらしい街並み、いつも大きなパフスリーブのドレス、美味しそうなエッグタルト…
もうたまらん。綺麗すぎる。
ビビッドカラーにエマ・ストーンの美しい黒髪と白い肌の映えること…

モノクロ映像の使い方も効果的だった。
ベラの自我が芽生え世界を知ってゆくにつれて色がついていった感覚だったけど、具体的にどのタイミングから色つきだったろう?確認したい。

そして予告からとても印象的だった音楽も本当に素敵。少し不気味なダークファンタジーの世界観が音楽でしっかり表現されていた。

エマ・ストーンの演技力もいわずもがな。精神の成長に伴って、違和感なく少しずつ少しずつ変化してゆく喋り方、表情、立ち振る舞い、歩き方、、、、、あっぱれですわ、、、、、、
エマ・ストーンてとくに好きだと思ったことなかったんだけど、ベラを演じるエマ・ストーンの魅力、すごかった。

パンフレットほしかったけど鑑賞後ショップが閉まってたので、また後日!
「映画を観た」って感じで最高でした。
ねこみみ

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