staysweet

哀れなるものたちのstaysweetのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
-
デルトロ的SF風味おとぎ話×ビョークやフリーダ・カーロのような苛烈さ。シェイプ オブ ウォーターのような抑えた色調かと思いきや、石岡瑛子を少し思い出させられる構築的な衣装は明るい暖色で主人公ベラを包む。
手探りでそんなことを思いながら観ていたが、この映画が借り物のつぎはぎだとか既視感があるとかいう意味ではない。しっかり独自の世界観が築かれていた。こういう《ミニシアター系の大作》はすっかりサーチライトの牙城になった感がある。

正直、事前に得ていた情報(チラシや予告、ノミネーション)からはどんなもんなんだかがわかりづらかった。賞絡みだからと普段アート系を観ない人には勧められない。脳、外科手術、性搾取方面が苦手な人もやめておいた方がいい。KVがなかなか強烈だけど、ミッドサマーの宣伝みたくアート寄りになっているだけで、別に形而上精神世界〜みたいな描かれ方はしない(造形にフェチみはある)。
アート系よりはミニシアター系、ちゃんとオチるし破滅的なことはない。博士が生んだベラの数奇な人生というものがたりをちゃんと見せてくれる。そのダークファンタジー風味はアメリ以前のジュネ監督と親和性があるかも。

すでに観た人の感想にセックスシーン多すぎという声をいくつか見たが、不必要に無用に多すぎるとは思わなかった。性に奔放というよりは本能、探究心なので、ベラが快楽を感じる描写はあっても、挿入やらピストンはあっても、それらが殊更にエロティックに見せられることはない(すぐそういう目で見る御仁はどう感じるか知らないが)。そういうのを目当てにしてしまいそうな多感なお年頃にはむしろこの映画はトラウマになりそうだからやめておけと言いたい…(テキストだけなら厨二にはハマるかも)
性行為に見られるように、本能の赴くまま剥き出しで破滅的で、そういう演技が評価されたのか?と思いきや、ベラはいつの間にかどんどん成長していくので“知恵遅れ“的ではない。しかし経験がないので常識がなく、合理的で、時に本能的な感受性から涙したりはする。賢いけど他人に合わせたり馴染んだりという学習はせず、一貫して探究心に忠実で、最後までずっとまっすぐで恐れを知らない目をしていた。本当にこんな実験があったら実際こんな過程を辿るのかも…と思わせるだけのものがあった。

これはベラの成長と精算、そしてあしたに続くものがたり。端的に言えば父娘の物語でもあるのかな、と思った。




このあとネタバレと思い出し追記







・移植できるくらい胎児が育ってたなら、普通はそっちだけ取り出して育てるよな…
・フェミニズム的だと言われるのもなんかわかるけど、そこに押し込めるような見方はしたくないな。でもこれをすごく嫌ってくる男性もいそうな気はする
・星の王子さま的なとこあったね
・ずっとお預けだったマックスはやっと愛に溢れたセックスをし、比較対象があるからこそベラはそこで彼を世界一に認定することになるんじゃないだろうか
(でもレズ関係を止める理由はない気もする)
(あの2人に子供が出来たらまたキッチュな話になりそうな)
・大人の体に幼い精神ということから醜悪な性搾取が連想されもしたが、ギリ回避されたと言えるかな…むしろ強烈すぎてファムファタルに。
・新しいけど定番にはなりそうもないファムファタル像。強く純粋で汚れないベラの生き方を讃えるものだとは思うが、さすがにそのまんま見習うわけにはいかないな。。
staysweet

staysweet