金春ハリネズミ

哀れなるものたちの金春ハリネズミのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.7
とっても愛おしい一本です。

監督が持つ才能と、原作のポテンシャルとが見事にマッチされているとても良い例だと思います。
個人的には奇しくも前回「籠の中の乙女」からたしからしい部分を掴めてる。
この映画の序盤は、さながらメアリーの思考実験そのもので、彼女が開いたセカイを端的に表してる。まぁはっきり言って元ネタはオズやと思うけど。

いつもどこか人を人とも思わない彼の冷たい作家性が作品全体をコントロールしていた印象ですが、
驚いたことに本作で僕は心が揺れ動いた。
前作に続きトニー・マクナマラの脚本がギラリと光ってますか。

「籠の中の乙女」とは主導権が逆転している。
全ては主人公ベラ、その人に委ねられます。
彼女ほど喜怒哀楽をしっかり示す主人公が彼のフィルモグラフィでいたでしょうか。
ベラの一挙手一投足がどれもフレッシュで、新しいセカイがどんどん開いていく感覚にワクワクします。
物語が活き活きとドライブしている感じがあって、如何にも劇映画。
本来コントロールしたいはずランティモスも、相手が彼女では手も足も出ません。これは自由奔放に動いてもらった方がいい作品になるモンです。

画面の隅々が色鮮やかポップで、いちいち絢爛ふわふわです。
こんなこと言うと野暮ったいですが、でも思ってしまったんだから仕方がない。オシャレでカワイイな、どこかの監督さんそっくりな意匠がひしめき合ってる。この磁場が本作の全体像を底上げしてるように思えるワケ。

如何にも現代的な風刺が聞いた一本で、男女社会に根ざした根本的な「当たり前」が、ベラひとりによってことごとく打ち砕かれていく様は爽快ですね。
男ってのはダメだな。
やっぱしち〇こだな。

濡れ場もそこそこ多いんですが、ボカしがないお陰でしょうか、全然やらしくないというか、自然というか、あくまで描写の一環であってそれ以上でも以下でもないという印象で落ち着きます。

撮影は続投のロビー・ライアン。
乱暴なクローズアップは相変わらずキューブリック仕込みって感じですが、魚眼でのパンはちょっと独特の魅力がありました。
古いし新しいみたいな。そんなことはないのかも。

ブサイクな舞踊と音楽は監督のランドマークですね。