おいなり

哀れなるものたちのおいなりのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.7
めっちゃ変な映画!!!
それに尽きる。

登場人物すべてが「哀れ」にも思えるし、皮肉屋的な言い方をすれば、人生そのものが哀れなものなのだろう。

もちろん哀れだから無意味かというとそんなことはまったくない。



一流俳優がたくさん出てて(MARVEL好き的にはお馴染みの俳優がいっぱいいて嬉しいですね)、中でも主演がエマ・ストーン。

しかし蓋を開けてみれば、そんな一流俳優たちが、赤ん坊の脳をその母親に移植した女の子、女に依存するセックス中毒的プレイボーイ、マッドサイエンティストの父を持ち自らも狂気に堕ちる外科医……に扮して、まともじゃない人々が変なことをひたすら繰り広げるという、この脚本渡されてよく引き受けたなと思わざるを得ない奇妙な映画。
出来上がったものをみれば監督のビジョンは最初から明白だったんだろうと思うけど、それを信頼してカメラの前で全裸を曝け出せる俳優の感覚というのは、あまりにもすごいなと思う。



フェミニズム黎明期を舞台に女性の解放と自立を描いた映画ではあるが、正直これをフェミニスト映画というのも微妙に違和感がある。
あえて言うなら、めちゃくちゃ変な話だけど、この映画は人間讃歌なんじゃないかと思う。
マックスが言うように、性をオープンにすることは(今も昔も)理性的な人のすることではないけど、子どもの純粋さゆえに快楽をありのまま享受しそこから学ぼうとするベラの姿は、なんというか「ひょっとしてこれが人間のあるべき姿なんじゃないか?」とすら思えるような説得力があった。
フェミ観からのズレを感じるのは特にそういう部分で、なぜなら女権拡張論者の世界では女性への性的搾取は須くフェミニズムの敵だからだ(その結果排除されるのは職業的娼婦の大半を占める女性なのだが)。

しかしそれさえ引っくるめて肯定し、自分の飯代は自分で稼ぐ女性たちと、そんな彼女たちに宿命的に惹かれ離れられない哀れな男たちを、時代性という「真実」に誠実であろうとしながら描いた本作は、紛れもなく、人間讃歌であると感じた。

文明とは、本質的には本能との闘いである。搾取も差別も戦争も、誰かの意思からではなく、生物的本能、獣の性から生ずる。理性とは、本能をコントロールし抑え込むためのものだ。
だからこそ、悪を排除することでは問題は解決せず、悪を内に認め制御する術を学ぶことこそが、進歩である。
幼児であるが故に文字通りの純粋さを持つベラなら、それを最短距離で可能にできる。映画という限られたフォーマットだからこそ、その荒唐無稽さが意味を持っている。
奇妙な演出手法にこそ最初は呆気に取られるが、現代社会への強烈なアンチテーゼ・カウンターパンチとして、本当に価値のある作品だと感じた。

変な映画なんだけどね。



セックスとは哲学である。これはもう間違いない事実ですよ。
みなさんも性病には気をつけて、進歩的なセックスライフをお楽しみください。
おいなり

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