うらぬす

哀れなるものたちのうらぬすのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.4
世界と精神の探求を通じて一人の女性が自立していく、というのがこの作品のコア(少なくとも、重要な部分)であるのは間違いないと思うのだけど、それだけでは全くこの作品のことを説明できている気がしないくらいの装飾過多っぷり。ゴシック奇譚という言葉に嘘偽りのないSFともファンタジーともつかない破天荒な設定に、御伽噺めいた刺激的なビジュアル、魚眼レンズを多用した美しい撮影、etc...と、作品を構築する一つ一つの要素に漏れなく監督の作家性が宿り、ともすれば作品のコアを覆い隠してしまいそうなくらい(だけどそうなっていないところに、監督の力量とバランス感覚の良さを感じる)。この味付けの濃さが堪らない。
エマ・ストーンの怪演は言わずもがなだし、個人的にはマーク・ラファロがカメレオン俳優として本領発揮している姿を楽しめたのも良かった。
音楽もちょっと他では聴いたことのない独特なもので、不安定な不協和音を巧みに操って美しいハーモニーに転化させているような、とにかく不思議な音色。アカデミー作曲賞にノミネートされているルドウィグ・ゴランソンやジョン・ウィリアムズの、いかにもハリウッド的な絢爛で壮大なスコアも素晴らしいとは思うけど、自分としては本作のユニークな曲想の方を推したい。