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哀れなるものたちのKSatのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.1
ここ最近増えているフェミニズムの視点で男性の有害性を皮肉るコメディとして、「バービー」よりはよっぽどマシなんだけど、微妙。。。

なんでウィレム・デフォーなのかなあと思ったが、途中で気付いた。トリアーの「アンチクライスト」と丸っきり同じテーマだね。どちらも、キリスト教世界において男性から性的に抑圧されてきた女性が解放されていく様を、陰核というモチーフをキーにして考察した映画なのだ。ホント、ランティモスとトリアーって親友なのでは?(どちらも違った角度からキューブリックフリークだし)

あっちは、あくまでも一組の男女関係を軸にした1時間半強のサイコホラーだったが、この映画はそれをスケールをデカくして全欧を股にかけた2時間半のSFファンタジーな広げてしまったため、ちとしんどい。

さらにいうと、ならいっそ女性のセクシュアリティに絞れば良いのに、中途半端にヒロインが酒や社会主義に目覚めたり医者を目指したりするエピソードを盛り込んだせいで、ものすごくバランスが悪く、どっちつかずな印象。女性の多様なかたちの「解放」を描こうとした割には、性的な要素が7割であとは取ってつけたように3割おまけしてる感じだし。娼館のくだりとかマジでいらない。そして、女性の性を描いた割に、妊娠や出産についての言及が全くないのも、ちと不自然。

あと、エマ・ストーンはこの映画で「体当たりの演技だ!」みたいに絶賛されたらしいけど、そんなに良かったかなあ。でも、ここまでブリティッシュアクセントで演じられたのは凄いと思う。

ジョン・オルコットのその先を目指そうとしたロビー・ライアンの撮影は、前半のモノクロパートこそジョエル=ピーター・ウィトキンの写真みたいで素晴らしい。しかし、執拗なズームや魚眼レンズ、前に向かって歩行する役者の前方で一定距離を保ちながら後ろに下がっていくトラッキングショットの多用で観客を食傷気味にさせるのは、もはや頭が悪いとしか思えない。

何より、英国の舞台劇的な口調の台詞の応酬には、割とマジで胃もたれ。ランティモスってのはどちらかというと、少ない台詞と絶妙な間で無機質な状況を生み出すのが持ち味だと思っていたのに、まるで真逆のことをして失敗している。

でも、美術や音楽は良かった。特に、リスボンでのダンスシーンなんかは、ランティモスらしくて好き。「19世紀末のヨーロッパ」を抽象的に表現するため、当時の衣装やインテリア建築様式と、当時のクリエイターが思い描いたSFの世界とをコラージュして視覚化するポストモダニズム的な試みは、寓話的でなかなか新しいと思った。

あと、ラストは嫌いじゃない。主語が「男」「女」とめちゃくちゃデカくなってて寓話感が強すぎるが、やってることはタランティーノの「デス・プルーフ」のラストと同じ感じでちょっとスカッとしたね。
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