やまだ

哀れなるものたちのやまだのネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

①女性の社会的地位の変遷と人間としての自立

モノクロの世界であった、ゴッドの愛情と独占欲と知的欲求からくる閉鎖的環境から飛び出し、庇護のもと知識と経験を蓄え自立してゆく様。
人間の成長の段階と、歴史的な女性の社会的地位の向上のどちらもを表して進んでいるような印象。
世界の表現(モノクロームから奇妙な色彩の世界、より現実に近しい色彩と人工物)で生物としての人間の認知の成熟の変遷を表し、ベラの成熟通して女性として社会で生きることの歴史的変遷をエマストーンの素敵な演技で最後まで観る側が楽しめました。

②宗教観の変化

一神教の世界においては、この世のあまねく全ての物は創造主による奇跡の御業。
ところが科学者の手によって人工的に生み出された主人公は、死んだ肉体に新たな生命(魂)を移植され生命として成り立つ、ともすれば冒涜的な存在。
輪廻転生の価値観が背景にある仏教国の日本人からは、引っ掛かりは感じにくいけれど、一神教徒からすると刺激的なものなのかなと思う。
科学が進み、普遍的な事実を証明できるようになった現代への歴史的開花と啓蒙が含まれていたような。
知らんけど。

③哀れなるものたち

タイトルの”哀れなるものたち“、者ではなく物(things)なんだね。
マテリアルとしての肉体に縛られて生きる人間として、その肉体から生じる欲求(性欲や独占欲、知的欲求)に囚われたまま生きてゆくしかない哀しさ。
だからこそ愛おしいと感じることや、自信を生み出したゴッドに対する怒り憎しみと矛盾する愛情と感謝、哀れだけれども哀しくはないよ。
元夫の将軍を手術したベラが、仄暗い灯りに照らされて無音で表情のみ映すシーン、ある意味超越した存在を確立したベラは何を考えていたのだろう。
一つの顔で複数の表情を観者に想起させるエマストーンの演技がとても良きでした。

③映画音楽

もう一つよかったな、と思ったのは音楽。
短二度の不協和音で複雑さと不気味さを倍増していた音楽が素敵。
不協和音が人に与える不快さを、映画の画としての表現と合わせてよい気持ち悪さを最後まで与えてくれた。
嫌いな人はとことん面白くないと思うけど、映画を芸術作品として、監督によるその人の一表現物として捉えてる人にとっては刺さるんだろうなと思います。
美しさと奇妙さと不快感はどれも、凡庸な物との違いは“違和感”が理由だと思うので、総じて個人的には好きでした。
やまだ

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