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哀れなるものたちのcalinkolincaのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
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「絶対不服従の精神。私という存在をあなたに許してもらう筋合いなど初めからないのだ。」

宮代大嗣さんの「哀れなるものたち」のレビューにあったこの一節に興味を持ち、鑑賞しました。
私は特殊な家庭環境からか昔から他人の顔色を伺ってしまうところがあって、他人から嫌われることを人一倍恐れてしまうところがあるのですが、そんな私からするとこの、宮代さんが二行で言い表した主人公・ベラの生き方は衝撃的でした。

ベラはとにかくすべての状況の変化を理解し、咀嚼し、答えを出すのです。その答えにあなたが悪い、私が悪い、という選択肢はなく、この世界はこういう仕組みだからこういう結果になった。その答えをとにかく受け入れ、その先を考える。その聡明さに私は強く心を惹かれました。

この映画は赤ん坊の脳を移植された女性が世界を旅し、自分の身体で体験し、自分の頭で考え、世界を知っていく性と生、そして女性の生き方への強いメッセージを含んだ一大冒険記。
古いのか、新しいのか、何時の時代かわからないSFめいたセットやモノクロと極彩色を行き来するスクリーンの色彩や衣装、カメラワークが芸術的に美しく、耳に残る劇伴も印象的。そんな世界観にくるまれているけれど、込められたメッセージはとにかくストレートで、それはすべて自分で体験し、考え、答えを出していくベラの生き方に込められていたように思います。

初めは赤ん坊程度の知能しかなく、その残酷さゆえにピュアで自由で美しいベラに皆魅了されてゆくのですが、世界を旅しやがて内面も理知的で美しい女性に成長してゆく彼女は更に魅力的で、その成長過程からあなたもベラのようにすべてを知る勇気を持てば強く、美しくなれるのよ、と語りかけられているように感じました。

そして、何よりも素晴らしかったのはそんなベラを演じたエマ・ストーンの怪演とも言える圧巻の演技。知能が赤ちゃんの時の危なっかしい歩き方や好奇心に満ちた瞳の輝き、激しいベッドシーンもいとわずベラの体当たり的な人生を演じきり、そんな破天荒にも見える序盤から後半の理性的な頭の良い女性への変貌までがとても魅力的で。「ラ・ラ・ランド」も素晴らしかったけれど、この一作で更に大好きな女優さんになりました。

映画館で観られて、良かった。
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