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哀れなるものたちのtkのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.6
おもしろかった!

まっさらな感性と、限りなく薄めた自意識でもって世界を吸収しようと貪欲なベラに、とうの昔に置いてきた本来の自分の姿を垣間見る。
その神秘性は人間本来の魅力を輝かせ、エゴと常識越しの窮屈な視点を持った哀れな人たちを惹きつけていく。

目の前にある経験や自分の本能的な欲をエゴや偏った視点によって濁らせてしまうような心は彩りに欠ける退屈なもの。
まるで脳からの刺激にも心臓からの血液にも反応を示さない臓器のような、
週末の昼下がりの肉のようなしけた味わいしか生まない。

一方で、表面的な自分なんてものは大切にせず、ある意味で自分を雑に扱う。
そうすると見えてくる、本当の自分の心の声を聞き取りながら赴くままに生きていく。そんなスタンスで生きるベラ。

こびりついたアカを落として神性をあらわにすることは難しいけど、
鳥瞰的な視点で人生を見つめて、全てを人生の思い出のワンシーンと考える、
あるいはエゴを捨てて、自分のことを「心が人生という舞台を歩むための媒介」と捉える事が、
アカまみれの自分達を本来の姿に近づけてくれる道なのかも。

...あと「見た目の持つ可能性」ってすげーなって思った。

ていうのも身体的魅力が人生を彩り豊かなものに導いたと思わずにいられなかった。
ベラに医者と実験体を超えた感情を抱いたゴッドも、
綺麗すぎる痴呆に婚約を決意した助手も、
途中現れたベラの人生に最大の転機をもたらした男も、
肉体を通じて快楽を超えた幸せを見出すきっかけとなった売春宿も、
彼女の内面的欠陥を埋めて余りある見た目の魅力によって訪れた機会で、
彼女が魅力的だったからこそ人生を深く濃く味わうことができたし、暗い闇からベラを救い出すことになったのかなって思ってしまった。

まぁその辺は映画だし別に深刻にならずにエンタメとして見るべきだろうけど、
ここまで人生と感情の機微を豊かに生々しく描いた作品が、身体的な魅力に気持ちを動かされた人をきっかけに人生が開かれる様を描いてるっていう事実が、美しさがもつ何にも勝る力への強い説得力を感じさせた。

エマストーンの全てを曝け出す圧巻の演技に関心超えて畏敬の念、濃い140分だった!
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