襟

哀れなるものたちの襟のネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

実験体ベラ・バクスターが性と生を探る冒険の果てに家族の元へ帰る話

ジェンダー論と言われればそうだし、そうでないような気もしてしまう
自殺体にその腹の中にいた胎児の脳を入れ、成長を観察するというイカれた前設定を序盤に消化してくる、圧倒的スケール

閉じ込められていた白黒ロンドンから、ベラ・バクスターとともに色とりどりのリスボンに放り出された時の心もとなさと僅かだが確かな爽快感
以降、自分がまるでベラ・バクスターの母親になったようなやきもきした気持ちで画面を追いかけることになる

外界に当たり前に存在する、性差別や貧富、時には気遣いによる枷に次々疑問を投げつけ、振り払おうとするも、概ね失敗する
まさに赤子の成長過程のよう
でも彼女はずっと自分の好奇心にしたがって楽しんで生きているので、
全く哀れに見えないどころか周りの方が哀れに見えるという落とし方、そうだと思った(大好き)

加えて、聡い彼女は失敗の度に落ち込んだりせず現実と真正面に向き合い続ける
後半ほぼ正論パンチで父親の教育の賜物だった

めっちゃくちゃすごいなと思ったのはベラが愛されていることをしっかり認識しているところ
で、これは愛されず育ったはずの父親が、「これが愛されているということで、私は君を愛している」とはっきり教えることができていたっていうことだよね?
父性本能にはそこまで内包されているものなのかな?

自殺体が元いた家にベラがついていくシーン、観ていた時は長い!まだあるんかい!と思ったけど、振り返るとかなり重要なシーンだった
「体と心(魂?)が切り離されたとき、それはもうその人間ではなくなるのか」という問いにしっかり答えを出していて、かなり面白い

ベラ・バクスターとして、愛し愛され、教えられ、失敗し、学び、生きてきた彼女はたとえ体も脳も別の人間でも、ベラ・バクスター以外にはなれないし、なる必要もなかったというかなり人間的な結論だったと思う


ストーリーもさることながら美術も衣装も撮影も世界観を補強しまくっていた
とにかく絶対アレクサンドリアじゃないアレクサンドリアが大好きなのと、
ロンドンに戻って結婚の話をするシーンの、ベラとマックスの顔のアップになった時の背景が波紋みたいになってたヤツ(言い方が下手すぎる)が超好きだった……
エンドロールも差別化されてて制作陣の気合いがビンビン伝わってくる

エマ・ストーンの芝居に迫力がありすぎてな、最早こっちは映画じゃなくて実話を見てるような気持ち…
鬼気迫る程の知識欲、探究心、美貌をあんなに放てるものなのか…

有り得んくらい和やかな幸せなラストにしてくれてありがとうございました
ベラのこれからの幸せに、乾杯!
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