熊犬

哀れなるものたちの熊犬のレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.0
【美しいけど紛れもなく奇譚】

原題:Poor Things

天才外科医(あるいはマッドサイエンティスト)のゴッドことゴッドウィン・バクスターは、かねてより研究していた脳の移植手術の為に、ある妊婦の自殺死体を手に入れた。胎児の脳を母親の体に移植する事で蘇ったその女性は『ベラ』と名付けられ、ゴッドと助手のマックスに育てられる事になる。
美しい女性の姿に純粋無垢な新生児の考え方が同居する神秘的な女性。やがて彼女は外の世界に興味を持ち、女たらしの弁護士ダンカン・ウェダバーンに連れられ世界を学ぶ旅に出る。
リスボン、アレクサンドリア、パリを通し、様々な人に出会いどん欲に学び続けるベラ。ルールや常識に縛られない彼女は世界に何を感じて何を学ぶか…
…な映画。

-----
もの凄い狂った映画でもあるにも関わらず、一本の筋が通っていて。
グロテスクでありながらも、美しく。
可笑しくて、最後は思考で満たされる。
本当に変な映画だけど、面白いから困ったもんだ!

本作はR18だけあって、それなりに重めにエログロ。
かなり直接的な表現や、あられもない映像もちらほら、どころかもの凄く多い。また倫理観もバグってる所が多く、いやむしろほとんどバグってる。
にも拘わらず、それらを全て不快感無く魅せるこの手腕…純粋に、もの凄いと思います。

独特な映像。この映画の為にコダック社に特別なカメラを用意してもらったとか。
色使いから映り込む世界(SF的?昔の人が描いた未来みたいな)まで総じて、とても美しい。
物語を通して変わり続ける映像表現は、ベラの見る世界をベラの視点から表現しているとか。
これもまた独特な世界観にプラスされて、全編を通して見ごたえのある映像になってる。
白黒に始まり、旅を通して色づいていく世界と、終盤にかけて落ち着いていく色味はお見事…ものすごく納得感がある。

ベラというキャラクターは子供特有の純粋さでもって、ルールや常識にとらわれず物事の本質を見抜く。
そして好奇心の赴くまま、好きなように生き、学ぶ。
この過程で彼女がどのような思考を持つ人間になるか…この映画は思考実験的な側面がある気がする。
それだけに、個人的には映画の中で焦点が"性"に振られすぎな気もした。
なんというか、性に明け暮れる時期があるのは分かるものの、もっとベラの思考の側面を覗いてみたい。もっと気づきが欲しい。
そう思わせるほど面白い設定だけに、終盤の人間として習熟してきたベラをもっと見たかった。

それはそれとして、エマ・ストーンはアカデミーを取るのかね…ん~、個人的には、なんとも言いづらい。
あまりにも強烈な設定とキャラクターだけに、感移入ができるわけもなく、この演技が果たしてどうなのかが分からん…キャラが強すぎて、見たことない物を見てる感じだから。
例えば極端なこと言うけど、10本足で目が200個、口は無く、長い鼻があるエイリアンの役をどれだけ上手く演じても…ねえ?
という、個人の感想です。

※追記:結果、取りましたね!

食卓でシャボン玉出すのは、何回観ても笑っちゃった。

■本日のビール『Brainwaves Swell』
醸造所:Monkish (アメリカ / カリフォルニア)
度々日本に正規輸入されてはお祭り騒ぎになる、アメリカの大人気醸造所であるモンキッシュ。ダブルドライホップという製法でシトラホップを強く効かせた綺麗なNEスタイルIPA。
カラフルな脳のラベルがポップで、少しグロテスクながらも可愛い!中身も極上という!
熊犬

熊犬