にっこりくん

哀れなるものたちのにっこりくんのネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます


この映画を見る時、まるで絵画を見ているような感覚に陥っていて、かなり視覚的情報に頼って映画を見てしまっていた。

ルネサンス期の印象派のような、誇張ありきの調和を重んじるものだと思えば、突然不調和をベラがぶっ込んでくることがあり、'ゴッド'を創造神にして、全知全能を目指すような自由で気高き、美しきベラが神話化して行くような様はベラ・ストーンの演技を見ていたら感覚に直接的に伝わってきた。

リンゴや酒、鳩やヤギなど、きっと意味を表す物が沢山出ていたはずだが、自分の知識不足をとても恨んだ。もっと考察を広げたい!

フェミニズム的な思想をかなり感じたし、大切に育てられたベラ(=女性)が、禁欲や忍耐という女性のタブーとされることを解放的にすることで、無敵感を存分に演出していた。

'ゴッド'は悪役のようにも感じられたが、父性によるものという説明や、世界を体験させるということから、本物の愛を感じた。
死体をさらって実験を行った結果、誕生した生きた死体ベラを愛してしまったというその父性はキリスト教の隣人愛とはまた違った、禁忌のようにも思えた。何かの比喩だったのかな。

解剖に携えることや、ものを壊させたり死体を自由に触らせたりするシーンは科学的な好奇心を、同じ科学者として重んじているゴッドの愛着を感じた。とくに、死体の男性の性器で遊ぶシーンを反復的にさせるのを黙って見ているシーンや、目を刺すこと、動物を殺せ!といって潰してしまうシーンなどは、ベラ(=純粋な人間)の好奇心をそのまま投影していて、この物語の恐ろしくもあり、面白いシーンだと感じた。

また、人に合わせることや外に出すこと、旅をさせることを体験させることで後から社会性を身につけ、ここで人はどうするのか、という社会的な好奇心を意のままに経験させることもとても面白かった。
小説を読ませることや、女性として自分のアイデンティティを確立していくシーンや、社会の中の自分を認めることが出来るシーンからは、子供の成長段階を見ているようだった。

分かるところはおおよそここまでだったけど、とにかく考察が膨らみ、字幕がこれほど邪魔に思えてしまうほど、キャストの演技力や、カメラワークや配置などを重視して見ることが出来た。
特にエマ・ストーンは最高の女優だと思う。
飛び降りるシーン、ベラ、最後のベラ、表情が違う。目が違う。本当に目の色だけで、眼力だけであそこまで表情が変わるのは女優の力だと思う。
キマってる感じというか、秩序のない状態の人間の不気味さを表情だけで描いていて、とてつもなかった。
衣装も着こなしていてすごい。とにかく華やかで可憐なのに、幼稚で'着せられてる'感じも何故か醸し出してて存在自体が複雑なのに、あそこまで分かりやすく存在感を出せるのは力量だと思う。

是非、そこに着目できる教養に富んだ人に見てもらいたい。
そうじゃなくても、気持ち悪さや謎の無敵感、開放感、人間らしくもない野蛮な人間らしさを体験して欲しい。
にっこりくん

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