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哀れなるものたちのumihayatoのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
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うーーーん。なんだろ。
散々個人の自由を謳歌してきた男の分際でどのツラ下げてこの映画を語るのか。居心地良く見ることなんてとても出来ず、ただただ反省へと逃げたいけど、正直なところ誰かに対する所有欲とかとっくに無いし、結婚とか家族が大切みたいのも薄れちゃったし、セックスだって別に「恋人がいたってヤリたいなら誰とでもすればいいんじゃない?」って気持ちだしそもそもそんな好きでもないので
あんまり「自由や開放」が「性や身体」の方向に行っちゃうとあまりノレない。。。

もちろん女性蔑視だったり、フェミニズム的な権利や自由、性搾取や抑圧、固定観念からの解放の主張としては理解できるし、大切な事だし全てに同意する。
身につまされることだらけ。
性描写に嫌悪感とかも特にない。
寓話としても完璧だとは思う。

けど、あまり好きな方向性ではなかった。

結婚生活において「あなたの自由を自分の存在で阻害したくない」と相手の優しさまでも突き放し、それが寧ろ自分の自由を優先し相手の自由を奪っていたのかもという事を考えている僕にとって、尚更ベラの様な生き方には共感も痛いほど感じるが、トラウマ的な危機感も同時に感じてしまう。

ベラには実験観察と称してるとは言え最初から「自由な意志(宗教的罪悪感が存在しないという意味で)」もある程度担保されていて、言葉を喋り出した瞬間から自立し、抑圧や拘束を跳ね除ける"強さ"もあるし、大人になるにつれてそれはさらに強固になる。自分を押し通す故の既存の社会からの孤立の苦悩も描かれない。字が読めるので本から知識を得る事もできるし、世界を見てまわることも世界の矛盾を知ることも出来る。
誰も他者を必要としてないし、誰かと一緒にいたいと感じてる様にも思えない。
(ぶっちゃけ富裕層のイメージに近い感じが。衣装もなんかハイブランドっぽいし。。)

僕が見たかったのはそういう人が個人的な自己救済をしてスッキリじゃなくて、それすらも出来ない状況にいる誰かを救うことだったり、それでも一緒にいたい誰かと苦悩するとこだったかな、、、

結局そのマッドな"父"に感謝すんだ?とか男性だけで一方的に婚約契約書書いたみたいなあいつとキリスト教的な結婚はするんだ?とか
「社会主義だなんだ」と言ってた友達と、実験で(動物自身の意思や選択ではなく)改造されたキメラ動物と、成長させると言った割には口も聞かせぬ隷属させた男達と、自分だけが心地いい箱庭的豪邸空間で酒飲んでニコニコて、それ結局資本主義の成れの果てのディストピアなんじゃないかとか、過保護にされてた富裕層の子がちょっと色々聞き齧って戻ってきただけじゃんとか思っちゃったり。

「ファースト・ワイフ・クラブ」という映画でも女性の権利と自由が謳われ、夫達への復讐が描かれるが、主人公達は闘争の末に「自分だけが救われても他の被害者は苦しんだまま」として女性達やマイノリティの為の会社を設立するし

「ウーマン・トーキング」だってトランスや名誉男性も含めた対話と議論の末に、それぞれの選択が描かれていた。

自分の社会的な解放や幸福や自由は、自分の救済だけで得れるものではない事の表明だった。

そんなこと考えてるとラストに彼女の獲得した自由が、個人の頭の中だけのグロテスクな鳥籠な感じがしていまいちノレませんでした。
あんまり楽しそうでも自由そうでもなかったし。

「知識や経験」を得られ学ぶことができる人間がそれを自己の救済や成長の為だけに使うっていうのはあまり賛成できないし
「"社会の中での"自由や開放」は個人の中ではなく、疑問や問題意識同じくする仲間や、考えは正反対だけど何か一つだけでも共通する人達との連帯の中に見るものなんじゃないかと、個人的には思ったりする事が多々あるので、僕はもっとそういうのが見たいのかもです。
この映画はベラという個人の人生・自己形成までの映画だからというのはもちろんわかっているが、「世界をよくする」と言うのなら尚更そういうものも見たかったかなと。
もっと一直線に見ればよかったな。
原作では続きがあるのかな?

しかし、この感想も結局彼女の生前の苦しみや生まれ変わってなお繰り返される抑圧を想像できてないで、自由を謳歌してきた男性特権から物言ってるんだろう。
普段偉そうなこと言ってる僕は結局彼女達の生きる上での壮絶な闘いも憎しみも、これっぽっちも想像できてない加害男性なんだと思う。
罪悪感に押しつぶされそうだ。
男に生まれてごめんなさい。
こんな人間になってしまってごめんなさい。
僕には「自由」は早すぎるのかもしれない。

あと正直エマ・ストーンの演技が好きになれない。多分ララランドのせいで。
映像や音楽、美術にしたって映画的総合芸術としてはここ数年で他の追随を許さないレベルだと思いました。
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