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哀れなるものたちのmitzのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
5.0
ヨルゴス・ランティモス監督による芸術性豊かな「性悪説」の塊。ユーモアと毒気に満ちた大人の寓話です。
自ら命を絶った女性ベラから胎児を摘出し、その脳を移植し蘇生するマッドサイエンティスト バクスター。大人の身体を持ちながら新生児の目線で世界を見つめ、美しく無垢なベラに知性が芽生え、同時に性に目覚めていく過程。「フランケンシュタインの怪物」と「アルジャーノンに花束を」を融合したような物語です。
世界を旅する中で理想郷とは異なる現実社会の残酷さを知り、哀しみから強まる成長への意志。そして、支配欲に腐心する男たちと対照的に皮肉にも自由の象徴として描かれるセックスワーカーという選択肢。ベラという圧倒的な存在を通じて男性主導の社会構造における女性の転換期が描かれています。
特に脳と身体が繋がる成長の喜びを衝動的なダンスパフォーマンスで表現される独特の高揚感は今後映画史に残るワンシーンになるはずです。
このゴシック奇譚の誇張された華美な世界観を映像技術と不穏な音楽により再現し(ヨルゴス・ランティモス作品に多く見られる)覗き穴のような魚眼レンズの多用や要所に散りばめられたコメディタッチな演出。そして合間合間の章ごとに挟まれる幻想的で芸術性の高い挿し絵など、焦燥に駆られるほど一度では処理仕切れない情報量です。
人間の理性と本能の軋轢をエンターテイメントとして視覚化した完成度の高い芸術作品。白眉!
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