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哀れなるものたちのYAEPINのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.6
『女王陛下のお気に入り』でも思ったが、エマ・ストーンのイギリス英語の上手さに驚く。『ラ・ラ・ランド』の主人公と同一人物に思えない。

本作は、実験的に脳を移植された女性が外の世界に飛び出し、人間社会に触れ、自らの存在のあり方を模索していくストーリーである。
『ロブスター』を予習しておいて良かったと思ったが、本作では人体実験とか動物実験のモチーフがふんだんに盛り込まれている。

社会規範から最も自由な存在としてのベラは、禁じられていた外の世界で冒険し、笑い、泣き、快感を得て、大忙しだ。
彼女が逸脱した行動を取る度、我々はいかに社会に雁字搦めになっていたのかを実感する。
外に出た瞬間から世界がカラーに色づくのはまさに『オズの魔法使い』的である。

彼女は行く先々で失敗したりトラブルに巻き込まれたりするが、常に実験的なスタンスで素敵だった。
「結果」を素直に受け入れ、そこから派生的に起きた事象や自分の心の動きを分析し、新たな仮定をもとに行動していく。
とかく失敗を恐れる現代から見ると刺激的な存在だった。

ベラは生と性の解放を求めて冒険する一方で、行く先にはどこにも彼女を囲おうとする男性がいる。
それとリンクするように、どの街も空がVFXで描かれ、箱庭のような閉塞感があった。
男性たちは、身体を売る女性を蔑みながら、同時に娼館という搾取のシステムも必要悪として残している、いやむしろその恩恵に浴している、という二重規範にも切り込んでいた。
結局ベラの自由な行動も男性の庇護、金の元でこそ成り立っているというのは皮肉な現実だが、女性の仲間が出来たことがまだ救いだろう。

映画に出てくる衣装がとにかく奇抜で、それでいて均衡が取れていて、うっとりしてしまうほど美しかった。
今後衣装の展覧会があれば是非行ってみたい。

劇伴も印象的で、序盤は弦楽器のピッチをわざとずらしていく呑気で奇妙なサウンドだったが、終盤ではめいっぱい低弦を響かせた不穏な音色に様変わりしていた。

エマ・ストーンの演技はさることながら、マーク・ラファロの変貌ぶりにも驚いた。
初めは凡庸なスケベおじさんでしかなかったが、次第にベラの魅力に執着し、思い通りにならないことにいきり立つ姿は、嘆かわしくも目を見張る演技だった。
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