宇居香

哀れなるものたちの宇居香のネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

主人公が最初の方でうまく歩くことができない様が描写されていたり、女性の主体性の象徴として性器の存在が強調されるのはバービーと似ていてフェミニズム的だった。

妨害や困難を乗り越える様子がさらっとしていて、特定の個人の話というより成長して進化して決断し迷い行動する能力を持つ人類全体の営みを戯画化した話なのかなと感じた。

絶望から生の肯定を得るために個人のトラウマの解決などを極力排して(主人公は忘れているので)代わりに自由意志の必要性を押し出しているのが最近のトレンドと違っていて新鮮だった。

ベラの言動が自由意志によるものだとしても環境や周囲の人の行動から持てる者の話だなというのは随所から伝わってくるわけで、まず美人じゃなかったら連れ出してくれる男も婚約者も稼ぐ手段もなかっただろうし、そういう意味でも感情移入を促すような作りではなかった。作り手がこれこそ普遍的な女性の生き方だと考えているわけでは(まさか)ないだろうし…

ゴシックなデザインと幻想的な色遣いが混ざった雰囲気はとても好みで、ハチャメチャなダンスシーンが特に好きだった。

最後に親子関係の話。自分を暴力的に支配してくる男の子どもを妊娠した事を理由にベラは人生に絶望して自殺しており、それを知ったベラは「母性本能がなかったのね」と言っている。
育ての親である博士は父親から実験台にされ愛を得られなかった事を悲しんでおり、ベラには実の子のような愛情を持った。ベラは自分を撃とうとした夫を殺そうとせず、手術を受けさせて過去の自分と同じ状態にした。そして最後は微笑んで終わる。

私はこれを見て最後ベラは自分に母性本能、もしくはきょうだい愛(=家族愛)が芽生えたことに喜びを覚えて微笑んだのかなと思ったけどどうなんだろう?

ベラは自分が手術の末に生まれ直した事実を知ってショックを受け博士を憎んでいたが、瞬間の生の喜びを感じることに対しては満足していて、育ちの遅い妹の事も肯定的に見ており、最終的には手術されたことに納得しているように見える。

旅の最中にも持たざる者に対しての哀れみを見せる共感能力も持っている。つまり「暴力的な思考回路をしている夫も環境のせいでこうなってしまっただけで、命を奪うのではなく手術で生まれ直させ正しく育てることで自分のような善良な人間にすることができる」と思ってあのような決断をしたのでは。自分を殺そうとしてくる存在に対して隣人愛のような愛情を持ったのではないかと思った。

この映画に対する情報量が足りてないので今の自分の考えが合ってるとは思ってないけど、最後のベラの元夫に対する行動は、根底にある図式が善意から来る事も含めて優生思想的なのではという気がするし、それが生の肯定の中に包まれている事もあって恐ろしい終わり方なのではないかと思う。いや殺すのよりはまともな選択なのか?どうなんだ?

成長して知性を得た者以外は不幸になっていて成長の過程が一方向的なように見えるのもどうなのかなと…。そういうバッドエンドなら分かるけど。

ラストの中庭は異常にグロテスクでシュールに映るけれども、最初の方の豚と鳥のキメラは遺伝子組み換えを想起させるしベラの道中はグランドツアーやマンスプレイニングを思い出させる、
だとしたらそもそも脳を手術するのも教育することも他者の脳を変えるという意味では同じことなのではということを言っている…のだろうか…???

あれ?否定的なレビューにしようと思っていたけど分からなくなってきた。こうやって映画を観ることで普段自分からは考えないテーマに意識が向くこと自体は身になる経験なので、最終的な評価は保留。
とりあえず原作読みたい。
宇居香

宇居香