Hiroki

哀れなるものたちのHirokiのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.3
ついに2024年のオスカーが数時間後に迫ってきました!
最終的なオスカー予想は1番下に書きますが、とにかく『オッペンハイマー』の年になりそうです。
13ノミネート中いくつ授賞するのか!
本作はオッペンハイマーに次ぐ11ノミネートなのですが、もしかしたら無冠かもしれない。
そのくらいオッペンハイマーはどーやら強そう...

さて今作は2023ベネチアの金獅子賞、BAFTAで5部門とゴールデングローブで2部門受賞、National Board of ReviewとAmerican Film InstituteでTOP10入りと飛ぶ鳥を落とす勢い。
興収は北米で約3,400万ドル(約50億円)、全世界で約1億ドル(約150億円)とアート系でratingもほとんどの国で1番厳しい分類に当てられていると考えるとかなり良いと思う。
製作費も約3,500万ドル(約51億円)らしいのでまー悪くはないはず。

“現代版”“女性版”フランケンシュタインというキャッチをたくさん目にしていて、さらにヨルゴス・ランティモスの長編で初の原作があるお話。
しかもその原作がとてつもないらしいと聞いていたので、とりあえず映画を観るまでは原作は読まずに鑑賞後に原作を読んだ。

これ映画を観た人にはぜひ原作も読んで欲しいんだけど、まずこの映画は構成が素晴らしい。
原作者のアラスター・グレイは物語上で編者という立ち位置をとっていて、まずマッキャンドルス(映画のマックス)の回顧録が次にベラの書簡が、そしてそれに編者の序文と註釈が入るという仕組み。
そして驚くのが、悠々とマッキャンドルスが語るベラの冒険の回顧は次の書簡によっていとも簡単に砕け散る。ここでこの物語は完全なるミステリーへと変身する。(原作の詳細は読んで欲しいのでこれ以上は触れません。)
なんかもー聞いてるだけで映像化したい内容じゃないですか?
でも、映画を観た人なら既にお気づきだと思うが今作はそーいう作りに一切なっていない。
これこそが“奇才”と称されるヨルゴス・ランティモスの恐ろしい所。

このミステリーを描かないという彼の選択は=ベラ(エマ・ストーン)という1人の女性の物語にする事そのものだった。
原作の大部分を占めるのは語り手であるマッキャンドルスの言葉であってベラの言葉ではない。(まーそれがミステリーを生み出すのだが...)
しかしこれはベラの物語だ。
ベラという持たざる女性が家父長制に抗いながらやがて自分の“力”を手に入れてゆく物語。
その本質を抽出するべく彼が出した答えこそがこれだった。
「原作に忠実に」とかそーいうモノを遥かに超えて彼の創造力が弾け飛ぶ。
これこそ映画だなーと深く感動した。

ヨルゴス・ランティモスはこれまで常に“力”を描いてきた。
特に家父長制などに代表される“大いなる力”からの脱却。(彼が幼い頃に父親に捨てられた過去が起因していると言われているが...)
そして同じようにいつも動物や身体障がいというモチーフも対比するように描く。
彼はパターナリズムやレイシズムを恐れているのではない。
“力”そのものを恐れている。
だから彼はいつも等しく見放す。
等しく笑いとばす。
そして等しく抱きしめる。
『女王陛下のお気に入り』のエマ・ストーンとレイチェル・ワイズ。
『聖なる鹿殺し』のコリン・ファレルとバリー・コーガン。
『ロブスター』のオリヴィア・コールマンとレア・セドゥ。
そして今作のエマ・ストーンと男たち。
ベラの真実はいつも真っ直ぐで強く美しい。
でも男たちの真実もまた以前はそーだったのだと思う。その真実が正義となり力となって増幅していく。
ベラの真実もいつかはそーなってしまうのかもしれない。
信じたくはないけど。
だからこそヨルゴスは皆を等しく見放す。
誰にも肩入れしない。
彼がインタビューで言った言葉。
「ベラには自由の力がある。それは時に恐ろしいものだ。」
その紙一重をここまで不穏にして繊細に、儚く描く。
映画としてのある究極の形を見たような気すらした。

ラストの示唆的な終わり方も賛否あるのだろうけどあれこそヨルゴス・ランティモスですよね。
原作とは違うやはり彼の世界があそこには存在していた。
そしてそれでもやっぱり彼が作るのはコメディ。
この世界をコメディで描くというのが最大の皮肉のような。
もー感服いたしました。

キャストはエマ・ストーン圧巻!
製作にも名を連ね、あーだこーだ言ってくる連中に「私が必要だと思ったからあのセックスシーンはあったの」と言い切る姿はただただかっこいい。
あとはマーク・ラファロがめちゃくちゃ良いです。
あの不埒なクソ野郎をあんな風に演じる事ができるハリウッドスターがどれだけいるだろう!
元々大好きだったけどさらにファンになった。


それでは最後に第96回オスカーの予想で締めます!はっきり言って長いです。
そして今作とはほぼ関係ないので興味ない人はここまでで。

作品賞:『オッペンハイマー』
前哨戦もほぼ勝利でこれは確実でしょう!可能性があるとした昨年オスカーを席巻したA24の『関心領域』かな。内容的にも好まれそうだけどさすがにないか...

監督賞:クリストファー・ノーラン『オッペンハイマー』
あまり波乱の少ない監督賞はノーランで決まり。オスカーに嫌われ続けてきたノーランがついに。

主演男優賞:キリアン・マーフィー『オッペンハイマー』
観てないので本当になんとも言えないけど凄いらしいですよ。ただここは前哨戦でも善戦した『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』のポール・ジアマッティもある。業界人気が高い俳優だけにあるいは?

主演女優賞:リリー・グラッドストーン『キラー・オブ・ザ・フラワームーン』
ここくらいエマ・ストーンと言いたかった。実際前哨戦は2人がほぼ分け合う形。でも1度オスカーに輝いているエマより先住民系で初の快挙となるリリーの方が強い気がする。

助演男優賞:ロバート・ダウニー・Jr『オッペンハイマー』
前哨戦でも圧倒的な強さを見せ魅力的なスピーチでも湧かせたダウニー・Jrが強い。対抗は『バービー』のライアン・ゴズリングであれだけヒットしたバービーに何かしら賞を獲らせたいという力が働くかどうか。

助演女優賞: ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』
おそらくオッペンハイマーが1番負ける可能性の高いのがこれ。ダヴァイン・ジョイ・ランドルフは前哨戦ほぼパーフェクトで決まりの感じある。初ノミニー4人に対して30年ぶりにノミネートされてジョディ・フォスターが獲れば3度目。

脚本賞:ジュスティーヌ・トリエ『落下の解剖学』
前哨戦からも本命視されているトリエ&アルチュール・アラリのパートナー脚本。
ただアレクサンダー・ペイン監督作は脚本/脚色賞で無類の強さを誇るので『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』のデヴィッド・ヘミングソンもある。そしてセリーヌ・ソン『パスト ライブス/再会』がここにきて強いのではないかという噂も。三つ巴の戦い。

脚色賞:クリストファー・ノーラン『オッペンハイマー』
主要部門で1番わからないのがこの部門。
脚本ではなく脚色でノミネートされた『バービー』(グレタ・ガーウィグ&ノア・バームバック)も怪しいし、『アメリカン・フィクション』(コード・ジェファーソン)は前哨戦で強かった。『哀れなるもの』(トニー・マクナマラ)『関心領域』(ジョナサン・グレイザー)も弱くはない。
でも迷った時はやはり本命かなー。

技術賞は簡単に。
▪︎撮影賞:ホイテ・ヴァン・ホイテマ『オッペンハイマー』
前哨戦での強さ。
▪︎編集賞:ジェニファー・レイム『オッペンハイマー』
前哨戦全勝の強さ。
▪︎美術賞:ルース・デ・ヨンク/クレア・カウフマン『オッペンハイマー』
歴史モノが強いこの部門だとオッペンハイマーになりそう。
▪︎衣装・デザイン賞:ジャクリーン・デュラン『バービー』
こちらはファンタジー系優勢。
▪︎メイクアップ&ヘアスタイリング賞:カズ・ヒロ/ケイ・ジョージウー/ロリ・マッコイ・ベル『マエストロ:その音楽と愛』
こちらは本人に寄せる系が強い傾向でカズ・ヒロの3度目の受賞かなー。
▪︎作曲賞:ルドヴィグ・ゴランソン『オッペンハイマー』
前哨戦全勝の強さ。
▪︎歌曲賞:『バービー』
バービーから2曲ノミネートされていてどちらかが受賞と予想。てかマリオのジャック・ブラックどこいったー?
▪︎音響賞: ウィリー・バートン/リチャード・キング/ゲイリー・A・リッツオ/ケヴィン・オコンネル『オッペンハイマー』
前哨戦での強さと戦争映画が強い傾向。
▪︎視覚効果賞: ジェイ・クーパー/イアン・コムリー/アンドリュー・ロバーツ/ニール・コーボールド『ザ・クリエイター 創造者』
前哨戦勝者のノミネートがなく混戦も、ヒーロー映画が弱くSFが強い傾向から。
でも『ゴジラ-1.0』も可能性有り。

最後に日本からノミネートされてる2つ
▪︎国際長編映画賞:『関心領域』
作品賞を含む複数部門ノミネートとカンヌのグランプリでおそらく強い。
日本代表『PERFECT DAYS』は少し厳しいか。
▪︎長編アニメーション映画賞:『君たちはどう生きるか』
前哨戦は『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』とほぼ五分五分。
普通にいけば本国のスパイダーマンだが国際的な要素が強まれば勝機あり。

長くなりましたがさーどーなるか見届けましょう!

2024-9
Hiroki

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