おこのみやき

哀れなるものたちのおこのみやきのネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

メッセージの伝え方という点においては「バービー」よりも成功していると思った。これは映画の面白さという観点とはまた違うが、本作は映画としても面白かった。

アカデミー賞の授賞式を観ていて、日本の解説者が本作について説明していた内容が印象的だった。ヘプバーン主演の「マイ・フェア・レディ」でイライザが最終的に教授を選ぶことに対する違和感が、「哀れなるものたち」では解消されているとのこと。「マイ・フェア・レディ」の結末については私も長らく疑問に思っていたことでもあり、それを解決するためにはどのような筋書きの可能性があるのか確かめたいと思った。

「哀れなる〜」では、自分を創造し、育てたゴッド(父)と一度は決別する。しかし「自らの判断によって」彼を受け入れる。1人の女性としての自立を掲げるこの映画の文脈で、ベラがかなり早急に結婚を選ぶのも一見矛盾しているようだが、それも「自らの判断」であるということだろう。

フェミニズム映画(こういうカテゴライズは好まないが、あえて)としてストレートなメッセージがありながら、しつこさが無い、よく出来た映画なのだが、それでもなお残る違和感を挙げるとすれば、作品全体を貫く進歩主義的な思想だ。つまり、人類はベラのように進化し、科学という権威を手に入れてこそ「人間」として認められる。だから登場人物たちは最後に、ヤギの格好をした将軍のことを笑う。(劇場では笑いが起きていたが、私は全然笑えなかった。それどころか、これを笑う登場人物たちのことを怖いと思った。)ベラによるリベンジ、復讐なのだろうが、私にはあのシーンが必要だったとは思えない。これでは、これまでのよくある「怒った女性が男性に対して復讐する映画」と変わらないのではないか。

さておき、監督がさまざまな物語からの引用を試みていることは窺えた。ベラの成長は「かぐや姫」そのものだし、前述のように「マイ・フェア・レディ」というもはや古典となった作品もそうだ。また、娼館で赤ん坊の病気を治すために女性を働かせる老婆から「千と千尋の神隠し」を連想した人は私だけではないと思う。

また、アカデミー賞で受賞した美術や衣装は、昨今よく見かけるAIが作り出すイメージ(私が思うに、筆致というものが存在しない表面がつるつると滑るような空気を含んだイメージのこと)と重なった。意図的にそういうイメージにしているのかは分からないが、機械的なものに対する居心地の悪さと、理想の世界をコントロールして作り出せることへの好奇心のような感情を同時に抱かせる。「こういうの好きでしょ」と言われているようで、少し押し付けがましいとは思った。