Ken

哀れなるものたちのKenのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.0
2024年6本目。
ものすごい作品だった……

頭の中が幼児だったベラが言葉を学び、性欲に目覚め、知識欲に目覚めて、成長していくお話。
ベラが本質をつくような発言を連発して、それが人間の欲望とか、社会とか、固定概念とか、ジェンダーとか、偏見とか、自由とか、支配欲とか、嫉妬とか、生き方とかを炙り出す。


映画として見るとエマストーンが凄すぎる。無邪気さの演技がすごい。そして身体張りすぎ。そこまで性欲を表現してしまうなんて。恋人やパートナーなどと見る時は要注意。

世界観もすごかった。服装や建物や乗り物のデザインだけでなく、空の色まで。美しい。不思議で魅力的な映像だった。


でもそんな映像とかの魅力よりも話のアプローチの仕方が斬新すぎて、ものすごく興味深かった。
エマストーンの大胆な演技とか、世界観の魅力とかがあるけど、とても真っ直ぐにテーマを描いている。

ベラはどんどん成長していくが、最後まで自分の発言に対して相手がどう思うかを想像する能力は発達しない。また、初めから最後まで謎の自己肯定感を保持している。自分の考えを疑うことが全くない。
だから自信を持って、自分が思ったことを発信し続ける。
人間の欲の塊でありつつ、適切な社会性を身につけたダンカンには決して口にできないことを言い続ける。
その本質をつく発言が本作の圧倒的魅力だと私は思った。

どこが印象的かと言われると、あまりにも多岐に渡る分野が描かれるから難しい。
自らの意思で売春をしているときのジェンダーに関するところと、性欲よりも知識欲に移るあたりかな。あと自由意志についても。

「君たちはどう生きるか」を見た後、意味がわからなさすぎて頭パンクした感あったけど、
本作は意味がある程度わかる分、消化不良に陥る作品だった。論点がすべて興味深くて印象的で頭パンクした。

もう一回と言わず繰り返し見たいけど、あの強烈な世界観とエマストーンに胃もたれしそう。贅沢なことだけど、悩ましい………


皆様のレビューを読んでいて気がついたことは、この魅力的な世界観のおかげで、クソ重テーマが緩和されてるのでは?ということ。なるほど…
あと「月経」「避妊」「性病」が描かれないこと……


まとめると、
エマストーンを筆頭にしたキャスト陣の素晴らしさと、魅力的な世界観が良い。
しかしそんなことを圧倒するテーマと、その描き方。
見終えた感想を言い合いたいけど、人と一緒に見にくい描写まみれなの本当にもったいなくないですか…??





蛇足。
『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』を今日読み始めました。
正直最近映画に飽きが来てたから、そもそものところから考えてみたいなって思って。
そしたらもう数ページ目から楽しくって仕方ない。

「われわれが映画を観るのは、新しい魅力的な世界にはいりこみ、最初は自分とかけ離れて見えても根底では似かよった別の人間の生き方を重ね合わせるためであり、架空の世界の体験によって日常の現実を浮き彫りにするためだ。われわれは人生から逃避したいのではなく、人生を発見し、斬新で実験的な方法で頭を使い、感情をうまく解放し、楽しみ、学び、日々に深みを与えたいと願っている。」
https://a.co/hnkvmeg

本作も本当にこれ。
自分とかけ離れているかと思いきや、自分自身が日常から抱いてた違和感を浮き彫りにしてくれた本作。
良かった。
Ken

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