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哀れなるものたちのmasayaのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.2
自殺した女性の身体と胎児の脳を持つベラが世界を知る為の旅に出る。良識を盾に無垢な精神を食い物にすることで成り立つ歪な社会で、学び、経験して自分の意志で生きることを選びとった彼女の"生きて還りし"大冒険譚。彼女の眼に映る奇妙で幻想的な世界に魅了される。

公開直後に見そびれてこのまま観ずに終わるところだったので、機会をくれた大洋劇場に感謝したくなるほどの良作。ヘンテコ世界観とヘンテコ主人公を面白がってたら観ていくうちに自分の良識の足場がグラグラしてくる。頭がおかしいのはどっちだ。アカデミー女優を使ってすごい力技を決めてくる。

女性の自立を描いた作品だというのは予告編から見て取れたことだけど、あまりに聡明なベラの冒険はそこに止まらない。貧困も拝金主義も依存もニヒリズムも、そして男性性までも、社会を構成する哀れなるものたちを次々と解放していく。純粋で無作法で好奇心旺盛、新しい英雄の風変わりなすがた。

ベラを取り巻く世界がヘンテコなのは彼女が成長する前までで、人生経験と知識を獲得してからの世界はそこまで変じゃなくなってたように見えた。まるで彼女の主観がどう変わっていったかを表しているようだった。以前は美しいけどあやふやな怪しい世界。以後は少し退屈だけど信頼できる世界として。
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