Ricola

哀れなるものたちのRicolaのネタバレレビュー・内容・結末

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

この映画はたしかにフェミニズム映画であり、最近よく見られる傾向といえばそうなのだが、女性の自立という生き方のなかでも、男性の所有欲・支配欲に抗うというのが、この作品の軸となっているため、フェミニズムっぽいものを色々と詰め込んだだけの福袋的な映画ではない。
物語の構造としてもそのテーマが一貫としているため、独特な世界観やグロさはあっても
提起している問題が読み解きやすい作品となっているのではないだろうか。


物語はほとんど常に主人公のベラの目線から見つめられ語られる。
モノクロ世界の際には魚眼レンズや広角レンズによる撮影方法が目立つ。馬車で向かい合わせになって座る相手との距離が極端に近くに見えたり、屋敷の階段がおどろおどろしいほど高くそびえ立って見えたり。ベラの目を通して見る世界は、どこか歪んでいるようだ。ただ、屋敷を飛び出したベラの見つめる外の世界は、メディアや地図を通した机上のものではなく、彼女自身が五感で体感することで現実のものとなり、世界は色づき始める。

彼女はダンカンに連れられてさまざまな土地を周る。
リスボンでひとりで街を歩いていて、気にいったエッグタルトを好きなだけたくさん食べたり、ふと出会った女性の弾き語りに心を揺さぶられる。ここで彼女は理屈では語りきれない感情を知る。ベラは楽しい音楽にのって好きなように踊って表現する。それは少し風変わりだけど、その特異さが美しいものに見えてくる。そのため、周りの人たちも彼女の踊りを真似までするのだ。彼女には人々を惹きつける力があるのだろう。

ベラは世間の常識など教わらずに生きてきたから、女性はこうすべきだとかそんな暗黙のルールなんて知る由もない。自分の思うがままに感じたままに行動し、魅力的と感じたものに従って生きていく。

この作品のテーマと冒頭に述べたように、ベラの最終的な敵は男性の所有欲である。遊び人のダンカンはどんどんベラに魅了されるが、彼の言う事など聞き入れずセックスそのものに夢中になるだけでなく、彼女は学ぶこと思考することに興味を抱き始める。見えるものだけでない世界を彼女はどんどん追求していく。元々精神的には自立しているが、彼女は社会において自立する生き方を身に着けていく。偏見や社会の良識なんてものともせず、自分が納得するやり方で切り拓いていく。その結果、彼女は所有欲・支配欲から脱却して自分の望む理想の小さな箱庭的世界を手に入れる。

気持ち悪いものや醜いものに蓋をせず、あっけらかんと見せつけてくるヨルゴス・ランティモスのやり方は、ベラの奇妙な物語を美化しすぎず、男性社会への抗議としてうまく作用していた。
Ricola

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