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哀れなるものたちのmitakosamaのレビュー・感想・評価

哀れなるものたち(2023年製作の映画)
4.4
劇場には見に行き損なったのだが、やっと配信で見れたわ。いやぁ面白かった!
なんか全編に渡りアバンギャルドな世界感で、ダレること無く一気見出来たわ。

とにかく物語のクセが凄い!
ウィレムデフォーが顔面傷だらけのマッドサイエンティスト・ゴッド。白痴な女性ベラを育てている。
まずベラを演じるエマストーンが気合い入った演技で、かなり濡れ場も多い。それ以上に知能障害がある女性が少しずつ知恵を得て聡明になっていく様が見事に演じられている。今作に“アルジャーノンに花束を”を連想した人は居たはずだ。

基本、知恵遅れなベラなので手淫行為を覚えて夢中になったりする。
婚約者をあてがわれるが、別の男が現れて連れ去ってしまう。この男がマークラファロ。言わずと知れたハルクの人だ。ハルクなのに滅茶苦茶スケベで、他の土地でセックス三昧。
でもベラが一般常識を知らない余り、すっかり振り回されることとなる。

ベラは知識欲を満たすことが強いので未体験のことにトコトン執着する。
旅船ではインテリな黒人に哲学を教わり、貧富の差をしれば全額寄付してしまう。
そしてセックスで金が得られるということで売春婦になり、そこでは共産主義者の女と仲良くなる。

ゴッドが末期故に返るが、そこでベラは以前の“夫”の元に戻ることとなる。
ベラは本来、事故に遭って胎児の脳を移植されていた存在だった。だが元の夫が中々のDV男。
旅の経験で強くなっていたベラは元の家に戻る…といった内容だ。

とにかくセクシャルなシーンとシュールな設定の世界感に目を奪われがちだ。
だが、本作の持つ真にアバンギャルドな所は別にあると思う。

それはズバリ、悉く欧米的・キリスト教的倫理観の逆を突いているところだ。
そもそもベラの親となる科学者が“ゴッド”と呼ばれている時点で不穏だ。神のみが生命のクリエイトを許されるというキリスト教の倫理観に著しく反する。アヒルや犬のキメラを作る点でも、キリスト教的には悪魔の所業となる。もちろん自慰行為やフリーセックスも反キリスト教となる。

そして貧しい者に富を分配し、社会主義者の売春婦から共産主義を学ぶ。思いっきりアカの思想で、世が世なら資本主義経済圏の最大の脅威となるアナーキーさ。

そもそも女権の確立もキリスト教的では無い。終盤のDV夫こそが、キリスト教の父権社会の象徴だ。

今作は多分にフェミニズムの主張が成されているが、従来の欧米社会がいかにアンチフェミニンかを問う内容だとも言える。今作の持つメッセージ性には非常に強力な棘を持っていることを理解すべきだ。
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