chi

シチリア・サマーのchiのレビュー・感想・評価

シチリア・サマー(2022年製作の映画)
3.9
11月、『蟻の王』に続き、同性愛がタブーであった時代のイタリアを舞台にした映画の公開が続いた。作品のイメージとしては、『君の名前で僕を呼んで』や『Summer of 85』に近いが、恋愛だけでなく同性愛者への差別迫害がはっきり描かれており、矯正施設に送られた話があったり、家の壁に文字を書かれたり、母親の視点も描かれるなど『蟻の王』と近い部分も感じた。ラブストーリーがメインのこちらの方がとっつきやすいかも。本作を見て興味を抱いた人は『蟻の王』も是非。

シチリアの景色は少しずるいと感じるほどに美しい。そのシチリアの地で愛を育んでいく2人の姿も美しい(シンプルにビジュアルが良い)。花火、湖、バイク二人乗りなど、定番の映えショットだが、やはり美しい。個人的に特に好きだったのは最終盤の湖の中での2人のショット。感嘆した。

この美しさとは裏腹に、先にも述べたように同性愛嫌悪がストレートに表現されるので、かなり辛い。観客の我々でも辛いのだから、その言葉を向けられる本人たちはどれほどの痛みを負うか。特に、「殺されたくなかったら今すぐ消えろ」と言われたジャンニが何も言わず何も抵抗せずにすぐにその場を去ったシーンには胸が痛んだ。きっと彼はこれまでも同じようなことを何度も言われてきたのだろう。彼には居場所がなかったんだと思った。家にも住んでいる地域にも。そしてニーノたちと楽しい時間を過ごしたニーノの家にも居場所を失くしてしまう。
この時代の同性愛に関する作品を見ると思うのだが、差別する人たちも元来の差別主義者であるわけではなくて、普通に優しい人なのよね。異性愛規範の社会だから、個人の思想においても異性愛が当たり前でそこから外れることは間違いと見なされてしまう。社会の価値観を変えていかないといけないですよね。





以下ネタバレ。








それにしてもラスト、これは辛い。エンドロールに入っても放心状態だった。たしかにこの作品にはずっと死の気配が漂っていた。狩り、事故、花火(火、消える)、「お前が自殺しても構わない」、「溺れたかと思った」など。ジャンニは死んでしまうのかなと思いながら見ていたのですが、まさかの銃声2発で幕を閉じるとは……家に帰って、あれは誰がやったのだろうと考えれば考えるほど一人の人物しか頭に浮かばなくて辛い。

最後に一つ言いたいのは、この2人の死によって社会が動いたのはわかるが、本当は誰の犠牲もあってはならないということ。二人の愛の死と言われても、そんな綺麗事で済ませてはいけないと思う。あのエンドロールの文言はイタリア語ではどうなってるかわからないけど、ちょっと受け入れ難いな。誰一人の犠牲もあってはならないと思います。
chi

chi