Jun潤

シチリア・サマーのJun潤のレビュー・感想・評価

シチリア・サマー(2022年製作の映画)
4.1
2023.12.16

予告を見て気になった作品。
1980年に起きたジャッレ事件に基づいて製作。

1982年、ワールドカップでイタリアチームの活躍に沸いているシチリア。
花火職人の父と採石場の作業員を取りまとめる叔父を持ち、郊外で暮らす16歳の少年、ニーノ。
バイク整備場で働くことを条件に母と共に社長のもとで暮らす少年、ジャンニ。
繋がりのない2人は、バイク事故をきっかけに知り合う。
同性愛者であることを理由に心ないうわさに晒され苦悩するジャンニの心を掴むニーノ。
夜の闇のように先の見えない暮らしの中で、2人は一瞬の花火のように輝く日々を共に過ごす。
残酷な運命が待ち受けていることを、2人はまだ知らないー。

うわーこう来ましたか。
エンドクレジットまで観て初めて完成する作品。
作中のストーリー自体は、違う境遇の2人の少年たちが、モラトリアムを経ながら、エモーショナルに、そしてノスタルジックな描写を積み重ねていく印象しか抱けていませんでした。
というかそれだけで作品として成り立っていました。
しかしそんな2人を引き裂く、周囲の人たちの反発や宗教的なタブー。
ニーノの親戚(おじさん?)の助言から、お互いをそれぞれ包む暖かい愛情とは別で、2人だけの秘密として続いていくのかと思いきや……
物語はいつか終わるって、そういうことだったんですか……
2人の身に起きたのは、自分とは違うものに対する不理解が故の悲劇だったのか、それとも2人がそれぞれの人生に対する切なすぎる選択の結果だったのか。

序盤から中盤にかけての、2人をそれぞれに取り巻く人々の、時に冷たく時に暖かい感情。
その中で鳴りを潜めていた登場人物たちを劇的に巻き込みながらストーリーがクライマックスへと向かっていく壮大なカタルシスがありました。
本来尊ばれるはずの家族の愛情や、親戚のお兄ちゃんが誰かに取られやしないかという子どもながらの純粋な嫉妬心もまた、2人に訪れる悲劇を避けられないものにしてしまうという切なさ。

ニーノ側のどこか牧歌的な暮らしや、ジュンニ側にあった一つのテレビをみんなで見るというノスタルジックな感じが、個人の感情の自由ではなく家族愛を優先するべきと言っているかのような選択肢の少なさに繋がっていたのがまた心にクる。

邦画作品では安全性の観点からかなかなか観れない画角からの花火のカットが、エモーショナルと切なさをさらに加速させていました。
Jun潤

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