近本光司

The Animal Kingdom(英題)の近本光司のレビュー・感想・評価

The Animal Kingdom(英題)(2023年製作の映画)
2.5
寸分足りとも動かない交通渋滞のファースト・シーンに、フェリーニの『8 1/2』を重ね合わせたのはわたしだけではないだろう。突然変異で翼の生えた男の、移送車から脱走。その一部始終を見ていた隣の運転手は「なんて時代だ」とごちる。なるほど、この近未来SFの設定がよくわかる、よくできた幕開け。しかしひどく残念なことに、映画としてのピークはこの冒頭のシーンにあって、あとはゆるやかな下降線をくだっていくだけの代物に見えた。劇中で突然変異に何の理由も意味も与えられないのはかまわない。けれども自分が突然変異してゆく過程の機微はもっとうまく描けたのではないか。いろいろと欲張ろうとしてその肝心の部分がおざなりになっている印象。これは2023年秋の話題作で、フランス全土で数えると千館近くで封切られていてびっくりした。みんな村田沙耶香を読んだほうがいいよ。